勤務中にスマホを触るのは好ましくないが、注意できる立場にはいないため、彼は黙って目を瞑ることにした。彼女を見るまできっとこの話は終わらない。しつこい男は嫌われると思うが、それについてはどういう考えでいるのだろう。

「この子っす。俺の彼女」

 目と鼻の先に画面を突きつけられた。近すぎて視界がぼやけ、彼女とやらがどういった風貌なのか全くもって分からない。

 これだけ近くで見せられると、いくら見てもほとんど何も認識できず、いつまで経っても輪郭すらはっきりしなかった。此奴は多分想像力が足りないのだろうと、彼は視界の半分以上を占めているスマホを見るともなく見ながら冷静に思う。

 言動から何から、見てほしい気持ちが溢れすぎている。その熱量に後輩の彼女は覆い隠されている。こちらがわざわざその霧を掻き分けなければならないのか。面倒だ。そんなことをするつもりはない。後輩の彼女に興味はない。

「この人が彼女なんですね」

 よく見えてもいない中、彼は当たり障りのないリアクションをして流した。興奮して熱くなっているからか距離感が馬鹿になっている後輩は、そうなんすよ、やばいっすよね、と素直に彼の返事を受け止め、スマホの画面を改めて確認する。彼女を見つめて愛おしそうに顔を綻ばせた。

 満足してくれたようだ。後輩は彼女の姿を見せた気になっているようだが、彼の方は、確かに見せられたは見せられたものの、言うまでもなくちゃんと見られてはいないのだった。見ようともしていなかったのだった。よって、後輩の彼女がどんな容姿をしているのか、情報はほぼ皆無である。そのような内容の話題になってしまうと何かと問題があるが、適当に返事をしても、そもそも返事をしなくても、それでこそ先輩っすよね、という後輩自らが編み出してくれた魔法のような言葉がある。それでこそ後輩の先輩なのである。