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「聞いてくださいよ先輩。俺ついに、彼女ができちゃったんすよ」

 客がいない店内で、二人して番人のようにレジにいる中、後輩がグッと距離を縮めて興奮気味に話しかけてきた。既に日付は変わっている。

 彼は深夜テンションに入りつつあるような後輩を一瞥し、そうですか、と素っ気ない返事をして秒で口を閉じた。彼のリアクションが冷たいことにはすっかり慣れてしまったのか、後輩は気分を害すこともなく嬉々として続けた。

「そうなんすよ。やばくないっすか?」

 何がどうやばいのか分からないが、後輩の中では彼女ができたことはやばいことらしいため、彼は顔も見ずに適当にやばいと共感し、雑に遇った。

「やばいですね」

「やばいんすよ本当に。毎日幸せすぎっす」

「それはやばいですね」

 やばいやばい、それはやばい。彼女できたのやばい。やばすぎる。めちゃくちゃやばい。後輩の語彙に合わせてしまうと、途端に馬鹿っぽく思えてしまった。

「ちょっと先輩、流石に返事が適当すぎじゃないっすか? でもなんすかね、それでこそ先輩っすよね。氷のようにクールな先輩にオーバーリアクションされる方が調子狂っちゃいますし、何より気持ち悪いっす」

 気持ち悪い。後輩もなかなか言うようになってきたが、確かに反応が大袈裟な自分を想像すると気持ち悪すぎた。しかし逆に考えれば、その気持ち悪いと思われる行動を取れば、後輩は自ら自分を避けるようになってくれるのだろうか。