包丁の刃を立て、頬を平手打ちをするように切り裂く。途中引っかかりを覚えたが、勢いをつけて強引に刃を進めた。口が裂けた。大量の血液が喉に流れ込んでいるのか、父親は呼吸が上手くできていない様子だった。気にしなかった。気にせず、逆手に持ち直した包丁を口内へ突き刺した。上から体重を乗せた。
手を抜かずに殺しながら、無事に死の間際まで追い込むことができていると彼は能面のような顔つきのまま思う。表情がなかったが、内心では熱く滾るものを抱えており、それは、何かにのめり込んで没入している時のような気持ちいい高揚感に似ていた。
力んでいた父親の身体から次第に力が抜けていく。踏んでいる腹は凹み、仰向けで何度も吐血し、黒目はぐるぐると回っているように見える。それも数秒後には落ち着き、光を消失した。空いた片手で瞼を開いてみる。瞳孔が散大している。口内に突き立てていた包丁を引き抜いた。先端から鮮血が滴った。
息絶えた父親を暫し観察していると、ふと背後から視線を感じ、振り返った。一糸纏わぬ姿のままである女子の虚ろな瞳と目が合い、覇気のない声で問われる。
「其奴は……」
「死にました」
「死んだ……。死んだ……。死んだんだ……。ああ、よかった、よかった……。死んでくれて、よかった……」
女子は頬を濡らした。自分をひたすらに苦しめていた人間から解放された歓喜からか、自分が間違いなく死ねることへの安心からか。その理由は、彼には判別できなかった。
「私がお願いした通りに、酷い方法で殺してくれて、ありがとうございました……。本当に、本当に、ありがとうございました……」
涙ながらに告げられる。自ら要望を出したとはいえ、実の父親が目の前で殺されたにも拘らず、女子は深い感謝を述べてみせた。彼には想像もつかないほどに壮絶な人生を送ってきたのであろうことが、その言動から窺える。それこそ、死を決意するほどに。
手を抜かずに殺しながら、無事に死の間際まで追い込むことができていると彼は能面のような顔つきのまま思う。表情がなかったが、内心では熱く滾るものを抱えており、それは、何かにのめり込んで没入している時のような気持ちいい高揚感に似ていた。
力んでいた父親の身体から次第に力が抜けていく。踏んでいる腹は凹み、仰向けで何度も吐血し、黒目はぐるぐると回っているように見える。それも数秒後には落ち着き、光を消失した。空いた片手で瞼を開いてみる。瞳孔が散大している。口内に突き立てていた包丁を引き抜いた。先端から鮮血が滴った。
息絶えた父親を暫し観察していると、ふと背後から視線を感じ、振り返った。一糸纏わぬ姿のままである女子の虚ろな瞳と目が合い、覇気のない声で問われる。
「其奴は……」
「死にました」
「死んだ……。死んだ……。死んだんだ……。ああ、よかった、よかった……。死んでくれて、よかった……」
女子は頬を濡らした。自分をひたすらに苦しめていた人間から解放された歓喜からか、自分が間違いなく死ねることへの安心からか。その理由は、彼には判別できなかった。
「私がお願いした通りに、酷い方法で殺してくれて、ありがとうございました……。本当に、本当に、ありがとうございました……」
涙ながらに告げられる。自ら要望を出したとはいえ、実の父親が目の前で殺されたにも拘らず、女子は深い感謝を述べてみせた。彼には想像もつかないほどに壮絶な人生を送ってきたのであろうことが、その言動から窺える。それこそ、死を決意するほどに。



