【住所はこちらです。父と二人暮らしをしています。父はクソ野郎です。もし出会してしまった場合は、ついでに其奴を殺してしまってもいいので、何が何でも私を殺してください。必ず、殺してください。私は自分が死ぬことができれば、後のことはもうどうでもいいんです。だから、どうか、私を殺しに来てください。お願いします】

 覚悟が決まっていると感じるメッセージが届いたのは、彼が仕事中の時だった。

 新たな殺しに選んだ相手は女子高生で、家では父親からの虐待、学校ではいじめを受けていると、聞いてもいないのに身の上話をされていた。学校にも家にも居場所がない女子は、必ず殺してと強い気持ちで死を乞い願うほどに人生に絶望している。それは殺してやらなければならない。父親がいたら父親も殺していい。もしかしたら一度に二人も殺せてしまうかもしれない。カナデの金蔓を殺す前に、一回くらい自殺願望のない人間を殺す練習はしておいた方がいいだろう。棚からぼたもちのような展開だ。

 その複雑で重たい境遇に関心のない彼は、殺すことだけを考えていた。死ぬことができれば後はどうでもいいと女子が言っているように、彼も殺すことができれば後はどうでもいいのだった。相手が虐待を受けていようが、いじめを受けていようが、彼は微塵も同情せず、共感もしない。そのため、身の上話をしても彼には少しも響かず、届かず、無意味であった。

【本当に殺しに来てくれるんですね? ありがとうございます。到着したら勝手に家に入っていいです。玄関の鍵は開けています。もし父も殺す場合は、残酷に殺してください】

 日時を決め、彼はその当日の午後に出発した。玄関の鍵は開けているらしく、着き次第勝手に入っていいようだ。

 ナビに従ってハンドルを操作し続けること数時間。目的地に到着した。家の隣のスペースに車を停め、エンジンを切る。スイッチを切り替えるように手袋を嵌めた彼は、すっかり暗くなっている外へ降り立った。