人の気配が近づいてくる。制服を着たその姿が視界の片隅に映り込んでも、彼は顔を上げようとはしない。

「あの、すみません」

 頭上で緊張の混じったような女子の声がする。彼は平然と無視をした。聞こえていても平気で無視ができる人間だった。

 スルーする彼の言った通りに、カナデが女子たちの相手をする。

「何か用ですか?」

 妙に柔らかい声だった。明らかにキャラを作っている。未成年の女子たちを怖がらせないようにするためか、爽やかな好青年のキャラを選択して即座に演じてみせるのは流石としか言いようがない。小首を傾げる仕草も様になっている。

「これ、私たちの連絡先です。その、良かったら、交換してもらえませんか? それか、この後、時間ないですか?」

 持っていた紙を手渡され、誘われる。カナデがちらりと目を合わせてきた。

 どうしますか? どうもしませんよ。受け取りますか? 相手は未成年ですから、何かあった時に責任を問われるのはこちらです。それなら、断るのが正解ですね。

 エスパーさながら一瞬で意思疎通を図り、断る選択を共有する。後から面倒なことになりそうな芽は潰しておく。そうでなくとも、学生に興味はない。十歳くらい離れた相手からナンパされても迷惑なだけである。

 まだ成人していない自分たちの安直な行動が、相手を社会的に殺す可能性があることを学生たちは分かっていない。想像力が足りていない。関わってきたのはそちらなのに、何か問題があった時、未成年であることを利用して被害者面されると殺したくなる。何も知らないくせに、大人が悪いと決めつけ誹謗中傷をするような奴らも殺したくなる。最終的に胸糞悪くなるくらいなら、今の時点で徹底的に遮断する方がいい。こんな夜遊びをしているような学生に人生を狂わされたくはない。