女と交わした約束通りに殺し終えると、小腹が空いてしまった。彼は床を踏み、台所へと向かう。

 何か食べられるものはないかと冷蔵庫を開けたが、本当に金がないことを証明しているかのように中はスカスカだった。調理することなく、すぐに手をつけられそうなものはヨーグルトくらいである。

 彼は冷蔵庫に手を突っ込み、ヨーグルトを掴んだ。長時間の運転をする前の腹拵えになるような量ではないが、何も食べないよりはいい。

 食器棚にあるスプーンを拝借した彼は、カーペットの上で仰向けで死んでいる女と机を挟んで腰を下ろした。女を殺す前に座っていた位置である。

 ヨーグルトの蓋を開ける。スプーンを差し込んで掬い、口に放り込む。自分の手で殺した死体のある部屋で、物も言わずに食べ続ける。異様な光景だった。

 早々に空になった容器を机の上に置き、一息吐いた。罪悪感はなかった。

 やることはやった。女の望みも叶えられた。後はもう帰宅するだけだ。

 楽しいと感じる時間はあっという間に終わる。一時的に欲求は満たされているが、日が経てばまた人を殺したくなるだろう。

 警察の懸命な捜査の果てに逮捕されてしまうその日まで、彼は人を殺し続ける。死んでいる女を騙した詐欺師が、犯行を繰り返すように。

 帰ろう、と彼は徐に立ち上がった。部屋の隅に設置されているゴミ箱にヨーグルトの容器を投げ捨て、暫し逡巡してからスプーンも一緒に投げ捨てる。

 ここの家主は死んでいる。ヨーグルトを勝手に食べてスプーンを勝手に使ったものの、わざわざ洗って元の場所に戻す義理はない。身につけている手袋を外したくもなければ、水で濡らしたくもないのだ。

「血は出さずに、しっかり殺しましたからね」

 去り際に、女に向かって報告する。聞こえていなかろうが、それを口にすることで一区切りがつくのだ。