「席はどこがいいですか?」

「カナデさんが決めていいですよ」

 選択をカナデに押し付ける。カナデは通路を歩きながら視線を巡らせ、ここにしますね、と奥の壁側の、周りに他の客がいない席を選んで座った。彼はカナデの対面に腰を下ろす。店員が、おしぼりとお冷を持ってきてくれた。

 店内にちらほらといる客は若者が多い印象だった。中には制服を着た学生のグループもいる。こんな夜遅くまで遊び呆けているのなら、隠れて非行でもしていそうだと偏見を抱いた。そのようなことをしていそうな派手な見た目でもあった。これもまた偏見であった。

 メニュー表を開いてそれぞれ注文した後は、妙な沈黙が続いた。水をちまちまと飲んで場を繋ぐ。ただ食べるためだけに自分を誘ったわけではないだろうことは彼も察している。何か進展があったのではないかと踏んでいるが、こちらからそれを問うのは憚られた。

「ミコトさんも割と、自分から話そうとはしない人ですよね」

 カナデが水を飲んだ。彼はその所作を目で追った。流れた沈黙は、自分を試していたものなのかと彼は唇を引き結んだまま思った。ミコトさんも割と、と誰かと同じであることを示すような言い方も引っかかる。

「俺が喋らなかったら、ずっと喋らなさそうです。でも、気まずさを感じているようには見えません。何か話さないといけないと焦っているわけでもないですね。それが、俺の新しい彼女との違いでしょうか」

 新しい彼女。そのまま受け取れば、突拍子もない惚気話の前振りになるだろうが、利害の一致で手を組んでいる彼とカナデの場合は、そんな甘ったるい話ではないと断定できる。新しい彼女というのは、カナデなりに選択した隠語のようなものだろう。新しい金蔓を見つけて、繋がりを持った。そんなところだろうか。