彼は改めて茶封筒の中を確認した。間違いなく十万円が入っていた。ガソリン代と、謝礼金。カナデが選んだ金蔓をいずれ殺害することも含め、今後もカナデと会うことになるかもしれないことを考えれば、決して多くはない金額のように思えてきた。彼はカナデに自分の住所を教えておらず、またカナデから尋ねられることもなかったため、カナデがこちらに来ることはまずないと言っていい。カナデは住まいを一方的に知られている状態だが、本人は意に介していなかった。

「しっかり働いて得た金を、こんなに頂いてもいいんですか」

「どうぞ、貰ってください。またミコトさんに会いたくなって、呼び出してしまうかもしれませんから」

「俺を待っている間に口をよく温めてきたようですね」

「それはもう、待ち侘びて待ち侘びて、会いたくて会いたくて、口が冷えるくらい震えていたものですから」

「そうですか。震えは治まっているようで何よりです」

 腹の中を探り合うような会話も程々にして、彼は持参していた財布に茶封筒を押し込んだ。荷物は非常に少なく、財布とスマホくらいである。カナデも身軽であった。

「そういえばミコトさん、今日は手袋してないんですね」

 まるで思い出したようにカナデは口にした。彼の手元を見て気づいたかのようだった。

 彼は今、手に何も身につけていない。指紋があちこちに残ってしまうが、今日は後ろめたいことをしに来たわけではないのだった。手袋を嵌めて出歩く季節でもないため、今回は身につけない方が得策である。その方が自然である。やましいことは何もない。

「今日は殺りに来たわけではないですから」

「それは嬉しい言葉です。俺と食事をするためだけに来てくれたってことですよね? 奢りますね」

「食事代くらい自分で払いますよ。それで、どこに行くんですか」

「車で十分くらいの場所にファミレスがあります。長時間滞在できますし、そこでいいですか?」

「構いません。道案内お願いします」