「……あの、先輩」

 唐突に、改まった声で呼ばれた。彼は眉一つ動かさずに後輩に目を向ける。先程とは打って変わって真剣な声色となった後輩は、赤く汚れた多数のティッシュを硬く丸めながら立ち上がっていた。床には商品が落下し、血液すらポツポツと飛び散っている。どこをどう見ても綺麗ではない状態だ。どうせ清掃をすることになるのに、決して床にゴミを置くことはしないその行動から、後輩の人柄が垣間見えるようだった。

「先輩も殴られて怪我してるのに、何から何までしてくださって、ありがとうございました」

 後輩はゴミを抱えたまま、彼に向かって頭を下げた。彼は無表情のまま、人間性は悪くないのだろう後輩の旋毛を見つめた。返事はしなかった。チャラさを隠しきれない語尾を封印してみせた後輩も、彼からの返事を求めなかった。

 遠くの方で、サイレンの音が聞こえ始める。彼と後輩は揃って外へ顔を向け、暗い夜だとより一層目立っている赤色灯を確認した。

「来たっすね」

 口調があっという間に戻っている。後輩は赤が白を侵食している塊を、レジに置いているゴミ箱に捨てた。

 強盗に襲われるというイレギュラー中のイレギュラーが起きた、いつもよりも明らかに慌ただしい夜が、駆け抜けていく。