「先輩、一つ、いいっすか?」

「何ですか」

 予想通り話し始める後輩と目を合わせたまま、彼は強盗の被害に遭う前とほぼ変わらない声色で答える。後輩は自分と同じように喋りにくそうではあったが、声の調子も悪くはない印象だった。

「なんか、あの、めっちゃ、冷静っすね」

「そうですか」

「そうっすよ。こんな大惨事が起きたのに、俺と違って全く動揺してないじゃないっすか。でも、あれっすよ、あれ。慌てずにてきぱき動く先輩見てたら、不思議と凄く安心したんすよ、俺。先輩ってやばいっすね。男も惚れる男っすよ、マジで。かっこいいっす。先輩に一生ついて行きたいんで、俺にも連絡先教えてくれないっすか?」

「教えません」

「やっぱそうっすよね」

 即答する彼に、後輩は落胆の色を見せる。何度お願いされても、教える気にはならない。大袈裟に褒めちぎられて口説かれても、他人に情が湧かない彼が絆されることはない。自分の言動で相手の顔色が曇ろうと、心底どうでもいいのだった。申し訳ないことをした、という罪悪感のようなものを抱く気持ちにもならないのだった。

 相変わらずの語尾で喋り散らかした後輩の声量は落ちていたが、これだけ口を動かせるのなら、少しの間に随分と回復していると言える。鼻血が無事に止まったからだろうか。救急車も必要なかったかもしれないが、彼も後輩も、顔面を何発も殴られた事実は変わらない。骨にまで影響はしていないだろうが、それも医師に診てもらわなければ判断できなかった。