さっさと金を盗めよグズが。お前らがちんたらしているせいでこっちは血みどろだ。

 レジでもたもたしている男二人に心の中で悪態を吐く。今日が初めての強盗なのか何なのか、要領も手際も悪すぎる。殺してやりたくなる。自分と後輩を殴っている男たちも含めて全員。しかし、しがないコンビニ店員は普通、そんなことなどしない。殺すことはしない。それならば、殺さずに叩きのめせばいいのか。出血するほどに暴力を振るわれているのだ。正当防衛が成り立たないはずがない。

「終わりました、終わりました」

 反撃を開始しようとした時、レジの方から叫ぶ声がした。それを合図に、暴行に徹していた男二人が彼と後輩からパッと手を離し、こちらを見向きもせずに出入り口へ向かって駆けていく。嵐が過ぎ去ったように、一気に音の数が減った。

 彼は胸倉を掴まれたことで乱れた服を整えながら、手の甲で口元の血を拭い鼻を押さえた。

 やり返せなかった。いや、やり返せなくて良かったのかもしれない。これで完全なる被害者になれるのだから。

 強盗の被害に遭ったことを警察に通報して、その次は店長に連絡か。顔を合わせたくない警察とこんな形で関わることになろうとは。だが、自分は被害者だ。変に怪しまれることはないだろう。何をされたのか、事実を正直に述べるだけでいい。下手に嘘を吐く方が却って疑われる。普通に働いていただけで、何一つ悪いことはしていないのだから、そもそも嘘を吐く必要もない。

 床に散らばっている商品と、ところどころに飛び散っている血液。彼と後輩の血塗れの顔。被害がどのようなものだったのか、想像に難くない惨状のはずである。十分な証拠となり得るものであった。

 彼よりも酷い暴行を加えられた後輩は、ほぼ瀕死の重傷を負っていた。鼻血が全く止まらないのか、力なく押さえている手が真っ赤に染まっている。どうにか処置をしようとしている後輩は顎を上げてしまっており、それでは誤嚥や窒息の原因となってしまう恐れがあった。