彼は無駄な抵抗はせずに、大人しく殴られることにした。恰幅のいい男の大きな手に頬を打たれ、ぐらりと重心が傾き、そのまま棚に身体をぶつける。前出ししたばかりの商品が飛び出して落下する。彼は商品には目もくれず、確かめるように鼻を押さえた。その手のひらを見た。血は出ていなかった。
一度殴ったことで妙な自信がついたのか、胸倉を掴んできた男に彼は再び殴打された。暴力の一線を踏み越えてしまったことで、箍が外れてしまったようにも見えた。この男は、後輩を捕らえてはいたが殴ってはいなかったのだ。
彼は歯止めが効かなくなっている男に殴られながら横目で後輩の様子を窺う。後輩もまた、リーダーと思しき男に殴られ続けている。先程まで自分に絡んでいたチャラい男とは思えないほどに弱っていた。無抵抗だ。後輩は最初から、抵抗一つしていない。もう手を出さなくても、逃げも隠れもしないはずだ。店員の動きを封じ、金を奪うことが目的であるのなら、それ以上暴力を振るう必要はない。
舌が鉄の味を感じ取った。口内が切れてしまったようだ。視界もぐらぐらと揺れていて、乗り物酔いをしているみたいに気分が悪い。子供の頃以来の、久しぶりの気持ち悪さだ。
欲求を満たすためにデブの男を殺した時と逆の立場になっている彼は、自衛をしようともせずにひたすら顔面を殴られた。殴られた。殴られた。口の中に血が溜まっていく。殴られることで唇の隙間から血が漏れ出ていく。一度は堪えた鼻の粘膜も遂には傷ついてしまったようで、気づけば鼻からも出血していた。喉に血が流れていく。気持ち悪い。思わず咳き込んだ。タイミング悪く殴られた。舌を噛む。血が飛ぶ。新たな出血箇所ができてしまった。彼の顔の下半分は無残な状況となっている。だが、後輩のように極端に気力を失うことはなかった。強盗犯に襲われていようとも、少しの恐怖も感じていないからだった。いつまで殴られなければならないのか。だんだん腹が立ってくる。強盗犯全員に腹が立ってくる。
一度殴ったことで妙な自信がついたのか、胸倉を掴んできた男に彼は再び殴打された。暴力の一線を踏み越えてしまったことで、箍が外れてしまったようにも見えた。この男は、後輩を捕らえてはいたが殴ってはいなかったのだ。
彼は歯止めが効かなくなっている男に殴られながら横目で後輩の様子を窺う。後輩もまた、リーダーと思しき男に殴られ続けている。先程まで自分に絡んでいたチャラい男とは思えないほどに弱っていた。無抵抗だ。後輩は最初から、抵抗一つしていない。もう手を出さなくても、逃げも隠れもしないはずだ。店員の動きを封じ、金を奪うことが目的であるのなら、それ以上暴力を振るう必要はない。
舌が鉄の味を感じ取った。口内が切れてしまったようだ。視界もぐらぐらと揺れていて、乗り物酔いをしているみたいに気分が悪い。子供の頃以来の、久しぶりの気持ち悪さだ。
欲求を満たすためにデブの男を殺した時と逆の立場になっている彼は、自衛をしようともせずにひたすら顔面を殴られた。殴られた。殴られた。口の中に血が溜まっていく。殴られることで唇の隙間から血が漏れ出ていく。一度は堪えた鼻の粘膜も遂には傷ついてしまったようで、気づけば鼻からも出血していた。喉に血が流れていく。気持ち悪い。思わず咳き込んだ。タイミング悪く殴られた。舌を噛む。血が飛ぶ。新たな出血箇所ができてしまった。彼の顔の下半分は無残な状況となっている。だが、後輩のように極端に気力を失うことはなかった。強盗犯に襲われていようとも、少しの恐怖も感じていないからだった。いつまで殴られなければならないのか。だんだん腹が立ってくる。強盗犯全員に腹が立ってくる。



