突然、後輩の唇が忙しなくなった。人の足音と気配も忙しなくなった。客が来たのは確かなようだが、思ったことを全部口にして実況してくれているような後輩の慌てぶりから、何やら様子が変であることを彼は悟る。作業していた手を止め顔を上げた。視界に映った異様な光景を、彼はすぐには飲み込めなかった。

 後輩が、マスクを身につけ、フードを目深に被った黒ずくめの男たちに襲われていた。殴られていた。暴力を行使する男たちは明らかに、客ではなかった。

 一方的な暴力によって後輩の身体は棚にぶつかり、綺麗にしたばかりの商品がどんどん床に落下していく。後輩もずるずると床にへたり込んでいく。鼻からは血が出ていた。それでも、後輩はやり返そうとはしない。驚愕のあまり、身体が萎縮してしまっているのか。見た目に反して、人を殴ったことがないのか。

「おい、お前はあそこの店員を早くやれ。絶対逃すなよ。逃したら計画がおじゃんだからな」

 一人の男がもう一人の男に指示を出す。命令された男が黙って突っ立っている彼を認め、なぜか一瞬躊躇うような素振りを見せた後、意を決したように駆け出した。今この場にいる人の中で一番の長身であり、体格のいい男だった。フードの隙間からは、茶色に染めているのであろう髪が覗いていた。

 このまま何もしなければ、自分も後輩のように鼻血を出してへたり込むだろう。どうするのが正解か。どうするのがコンビニ店員らしいか。男たちを順に殺ろうと思えば殺れるはずだ。しかし今は、しがないコンビニ店員である。やはり、後輩のように鼻血を流すのが正しいだろうか。逃げるにしても、そう簡単に逃げ切れるとは思えない。このような異常事態が発生した時に押す非常ボタンはレジにある。深夜で客もおらず、二人揃ってレジから離れていたせいで押せなかった。そのレジも、別の男たちに占拠されている。袋に金を詰めているように見えなくもない。

 決定だった。マスクとフードでできるだけ顔を晒さないようにしている男たちは、間違いなく強盗犯だった。