「すみません」

 案の定、女性は作業をしていた後輩に声をかけた。後輩は手を止め、はい、と明るい返事をする。愛想の良い店員だ。

「これと同じ煙草を買いたいのですが」

 女性は手にしていた煙草の箱を後輩に見せた。ひとまず、嫌でも自分が出なければならないような幕ではなくなる。

 後輩は女性に一言断ってから箱を受け取り、レジに入って同銘柄の煙草を指で追って探し始めた。

 彼は後輩の様子を気にしつつも、止めていた作業を再開した。まだフォローにはいかない。店長や勤続年数の長いベテラン社員に一通りは教わっているはずだ。困り果てていたら手を貸すくらいでいいだろう。深夜は客がほとんどいない。列ができることも滅多にない。せっかちではない穏やかな客であれば、ゆっくりでも多少は待ってくれる。女性はその部類のように見える。

「あ、ありました。こちらでよろしいでしょうか?」

「そうです。ありがとうございます」

 流石に客の前では舐めたような語尾を封印していた。なんすか、どれっすか、これっすか、間違いないっすか、などとすかすか言われてしまうとこちらがひやひやしてしまう。クレームにも繋がりかねない。クレームの対応は面倒臭いのだ。今この場で気難しい客に鉢合わせてしまったら、相手をしなければならないのは後輩の先輩である自分である。何事もなく仕事を終えたい。

「ありがとうございました」

 スローペースではあったが、後輩は問題なく一人で客を捌いてくれた。スピードは慣れれば自然と上がっていく。それまでは、覚束なくても丁寧に処理していく方が、客を嫌な気分にさせることもないだろう。

「先輩、どうっすか、今の。問題ないっすか?」

「ないです。その調子でレジお願いします」

 語尾が気になってしまうが、自分から話を広げる気にならない彼は、問題ないことだけを告げて唇を引き結んだ。