恋愛詐欺を働くカナデにも、カナデの生活がある。普通の人間としてコンビニで仕事をしている彼と同じように、カナデもまた、社会の片隅で細々と働いている。工場勤務だと言っていた。

 彼もカナデも、手を組むことにしたとて生活は何も変わっていない。平然と働きながら裏では犯罪行為を繰り返し、または繰り返そうとしている極悪人であることも、変わっていない。

 コンビニ店員に扮する時間が今夜も訪れた。彼はカナデからのメッセージの返信を後回しにして仕事へと向かう。

 この日のシフトは、最近新しく入ってきたばかりの後輩と一緒だった。転職するまでの繋ぎでバイトをしていた人が辞め、その穴埋めとして採用された若い男である。

「分からないことがあったらじゃんじゃん聞いちゃってもいいっすか?」

 若い男であり、チャラい男である。ありとあらゆるやんちゃをしていそうな男である。それでも無事に採用されたということは、面接で見えた人間性は決して悪くはないということか。

「分からないことがないことを願っています」

「入ってきたばっかの人間にそれはきついっすよ」

 人に何かを教えるのは好きではない。この後輩のように、やたらと声が大きくてテンションの高い人も好きではない。だが、今は仕事中である。自分の苦手なタイプの人間だからといって、他の人と違った態度を取るわけにはいかない。悪目立ちしないように。害のないように。彼は誰に対しても同じような、温度のない返答をする。熱がこもっていないのが彼であり、年齢性別関係なく敬語で話すのが彼であり、職場にいる誰もが周知していることであった。

「俺はレジしてればいいっすか?」

「売場の整理や清掃もしてください」

「分っかりました。めちゃくちゃ綺麗にしますんで」