欲は強いが気は強くはない男は、彼にはきはきとした物言いをされ、たじろぐ様子を見せた。小さな目を泳がせ、あ、とか、う、とか息だか声だか分からない音を口から漏らしている。

 全体的に不快な生物だ。だから死にたくなったのか。死にたくなるような目に遭ったのか。

 抱かせてほしいなどと血迷い発言をする前に、そのことについて男は辿々しいながらも一生懸命話をしていたが、冷酷な彼の頭にはやはり、全くと言っていいほど入っていなかった。興味のないことを聞き流してしまうのは、何も彼に限った話ではないだろう。

 汚い音を漏らしていた男が、汚い声でぼそぼそと喋り始める。一度気持ち悪いと思うと、何から何まで気持ち悪く感じて仕方がなかった。

「ぼ、僕、は、せ、性の、け、経験が、ないので、その、せめて、し、してから、死にたいんです……」

「そうですか」

「だから、あの、僕と、してから、こ、殺して、ください……」

「それは無理だとお伝えしたはずですが」

「ど、どうしてですか……?」

 その容姿で初対面の人と性に関することができると思っている方が不思議でならなかった。風俗嬢などであれば、それが仕事であるためどんなに嫌であっても相手をするだろうが、彼はただの殺人鬼である。抱くのも抱かれるのも御免だ。

 自分はなぜ、こんな面倒な男を殺しに来てしまったのだろう。時間を巻き戻せるのなら巻き戻してしまいたい。

 ファンタジーを求めるが、ここはファンタジーの世界などではない。願えば叶うようなこともなく、これまで通り何が何でも殺すしかない。毎回確認している後悔の有無も、この生物には通用しないだろう。いつまでも食い下がる気しかしないため、ここはもう強行突破だ。殺してしまえば静かになる。殺してしまえばストレスも発散できる。暴力的になってしまう思考も落ち着くはずである。