「申し訳ないですが、それは無理なお願いです」

「僕が、お、男だから、ですか……?」

「そういうわけではなく」

「だ、だったら、べ、別に、問題なんか……」

「俺はあなたを殺しに来ました。そういうことをしに来たわけではありません」

 発情している男の言葉を遮断する。このままでは埒が明かない。調子に乗らせるわけにもいかない。はっきり言わなければ、いつまで経っても殺すに至れない。

「そ、そうですよね……。じゃ、じゃあ、僕のこと、だ、抱いてから、殺して、ください……」

 人の話を聞けよデブ。きったねぇ豚野郎が。

 柄にもなく、非常に攻撃的な暴言が口を吐いて出そうになる。飲み込んだ。もう何ヶ月も人を殺せていないストレスが、希死念慮がある癖に性欲だけは強いデブを前に爆発してしまいそうになっていた。

 暴言を隠し持ちながらも彼は無表情を貫き通し、飼育のなっていない豚の対応を続けた。

「申し訳ないですが、それもできません」

「だ、抱くのも、抱かれるのも、だ、ダメなんですか……?」

 あなたのような汚くて醜いデブに抱かれたいと思う人も、逆に抱きたいと思う人もいるわけないですよ。鏡見たことないんですか。

 言いたくなったが、無闇な挑発はするべきではないだろう。一度本音を吐露してしまうと、そこから箍が外れて止まらなくなる。もう少しだけ堪えれば殺せるのだ。苦しみから解放されるのだ。彼は忍耐力を総動員する。

「そろそろ殺していいですか。殺され方の希望があれば教えてください。なければこちらで好きに殺します」

 男の問いをスルーして、彼は本来の業務に取り掛かった。手綱を強めに引かなければ、この男はすぐにどこかへ行こうとする。ふらふらふらふら蛇行されると殴り殺したくなってしまう。そうだ、殴り殺せばいい。決定だ。希望がなければ殴り殺す。希望があっても殴り殺す。人の話を聞かない人の話など聞く必要はない。