彼はカナデの上下する喉仏を意味もなく見つめながら、女を絞殺した時の感触を思い出す。言うまでもないが、女の喉仏は突き出ていなかった。

 机の下に隠した両手で、カナデの無防備な首を絞めるように空気を掴んでみる。当然ながら、中はスカスカだ。間に物体がないため、気分は上がらない。非常につまらない。すぐに形を崩した。想像では全く満足できない。

 沈黙を埋めるようにエア首絞めをしても心が満たされなかった彼の耳に、コーヒーを啜っていたカナデの平坦な声が届いた。彼はカナデの首から瞳へと視線を持ち上げる。相変わらずの表情で、昏い双眸だった。

「詐欺師に騙されて本気で死にたがる人がいるということは、逆に考えれば、自分を騙した詐欺師を殺してやりたいと恨む人もいるかもしれないということです。正気を失った元金蔓に殺される可能性があるのなら、そうなる前にこちらから殺してしまった方が安心だとは思いませんか?」

 問われても彼は否定も肯定もせず、カナデが鴨を殺す考えに至った理由のみを頭に入れた。安心を得るため。彼が人を殺すのは、ただ殺したいため。飛んだ悪人同士であった。

「そういうことですか。でもカナデさんは、人を騙すことはできても殺すことはできない。だから、鴨を殺す役割に、ちょうどカナデさんの見覚えのある滓を殺した俺が任命されたわけですか」

「そうです。その方が俺も説明しやすいですし、話も早いですから。何より確実に人を殺している人です。ミコトさんが送ってくれたメッセージからも慣れを感じましたから、回数を重ねているシリアルキラーだと踏んで信じることにしました。ビンゴです。おまけに冷静に話し合いもできる人です。殺人に慣れている人で、何が起きても動揺せずに落ち着いている人。ミコトさんは俺の求めていた人そのものなんですよ。実際に姿を見て、実際に話をして、より一層ミコトさんと手を組みたいと思いました」