女を殺した殺人鬼が自分だといつ知ったのか分からないが、言っていることは合っているため訂正の必要がなかった。白髪塗れの長髪の女。三十代の女。死にたがっていた女。その原因となった事柄は何だっただろうか、とほとんどの独白を聞き流していたために穴だらけとなっている記憶を彼は呼び覚まそうとする。興味のないことは頭に残ってくれない。それでも、虫に食われずに済んでいた気になる単語が隙間から顔を出した。瞬間、まさか、と思う。彼はカナデに目を向けた。相変わらず胡散臭く、気味の悪さすら覚える笑みを見せていた。自分に思い出す余地を与えたのはわざとか。

「ミコトさんの察しが良ければ気づいたかもしれませんが、ミコトさんが殺したあの女性、俺に大金をくれた人なんですよ」

 意地の悪い言い方をしているが、要はカナデが詐欺した相手だということだ。自分が殺したあの女は。長々と独言していた中で何度も登場していたように思える彼という三人称は、今目の前で対面しているカナデのことで間違いない。

 詐欺師であるカナデに好意を利用され、金を騙し取られ、途方に暮れ、絶望し、死にたいと思い、欲求を満たすための餌を探していた彼に見つかり、殺してもらうことを決意し、女は全てを終わらせた。人生をかけて好きになった相手は嘘塗れの詐欺師で、人生を終わらせるために選んだ相手は殺すこと以外興味がない殺人鬼。女は最期まで、人を見る目がないようだった。

 女の死に、間接的に、または直接的に関わっている二人が揃っている。カナデが、自分の騙した女を殺した殺人鬼を誘い出し、正体を明かしてまで手を組もうとする理由がようやく掴めそうだった。

 騙す詐欺師と殺す殺人鬼。偶然重なった共通の標的。選んだ鴨を騙して殺すこと。カナデが騙し、彼が殺す。それがカナデの悪巧みか。