「ミコトさん」
「俺の名前ですか」
「そうです。変更希望はありますか?」
「特には」
「それなら決まりですね。あなたはミコトさんで、俺はカナデ。これでいきましょうか」
カナデにつけられた名前はミコトだった。カナデの前では、彼はミコトとなる。なぜミコトなのかとありふれた疑問が脳裏を掠めたが、掠めさせただけで抹消し、彼は何も問わなかった。
互いに本名を知らないまま、二人はミコトとカナデとして、他の誰かに聞かれると困るという込み入った内容に触れる。彼は得意の聞く耳を持った。
「ミコトさんは長話が好きではないとのことなので、結論から先に述べますね。俺と手を組みませんか?」
まっすぐ目を見て投げかけられるが、前後の脈絡がないために咄嗟に言葉が出てこない。彼は確かに長話は好きではないが、それにしても結論が過ぎるのではないか。イエスかノーか、決断するには圧倒的に情報が足りない。
「流石に飲み込めないので、もう少し詳細願います」
「そうですよね。では、徐々に話の枝を広げていきますね。まず俺は、裏でこっそり詐欺を働いています。自分で言うことではないですが、詐欺師の端くれです」
詐欺師。そうか、詐欺師か。
淡々と告げられた、本来であれば驚くべきであろう新情報を前にするも、通りで人を騙すことに慣れていたのかと、騙しても平然としていられたのかと冷静に納得してしまう。その片鱗があったことによって、カナデは詐欺師であるという衝撃が薄れてしまった。
犯罪行為をしていることをさらりと打ち明けられたことで、あなたのことを信じています、と今度は間接的に伝えられている気分になる。彼が同じ穴の狢であることを確信し、信頼していなければ、自分は詐欺師だとまるで自己紹介のように名乗れるはずがない。
「俺の名前ですか」
「そうです。変更希望はありますか?」
「特には」
「それなら決まりですね。あなたはミコトさんで、俺はカナデ。これでいきましょうか」
カナデにつけられた名前はミコトだった。カナデの前では、彼はミコトとなる。なぜミコトなのかとありふれた疑問が脳裏を掠めたが、掠めさせただけで抹消し、彼は何も問わなかった。
互いに本名を知らないまま、二人はミコトとカナデとして、他の誰かに聞かれると困るという込み入った内容に触れる。彼は得意の聞く耳を持った。
「ミコトさんは長話が好きではないとのことなので、結論から先に述べますね。俺と手を組みませんか?」
まっすぐ目を見て投げかけられるが、前後の脈絡がないために咄嗟に言葉が出てこない。彼は確かに長話は好きではないが、それにしても結論が過ぎるのではないか。イエスかノーか、決断するには圧倒的に情報が足りない。
「流石に飲み込めないので、もう少し詳細願います」
「そうですよね。では、徐々に話の枝を広げていきますね。まず俺は、裏でこっそり詐欺を働いています。自分で言うことではないですが、詐欺師の端くれです」
詐欺師。そうか、詐欺師か。
淡々と告げられた、本来であれば驚くべきであろう新情報を前にするも、通りで人を騙すことに慣れていたのかと、騙しても平然としていられたのかと冷静に納得してしまう。その片鱗があったことによって、カナデは詐欺師であるという衝撃が薄れてしまった。
犯罪行為をしていることをさらりと打ち明けられたことで、あなたのことを信じています、と今度は間接的に伝えられている気分になる。彼が同じ穴の狢であることを確信し、信頼していなければ、自分は詐欺師だとまるで自己紹介のように名乗れるはずがない。



