また長くなってしまいそうな話題である。その前に挟むものが分厚いのではないかと思ったが、相変わらず顔に出すことなく、彼は敢えてカナデのペースに合わせることに徹した。

「俺のことはゴミ箱と呼んでいませんでしたか」

「あれは冗談です。いくらSNSのアカウント名だからって、実際に会って関係を持ちたいと思っている人の名前を物の名前で呼ぶ趣味は俺にはないんですよ。適当につけすぎじゃないですか?」

「ちょうどゴミ箱にゴミを捨てた後にアカウントを作成したものですから」

 ゴミ収集車に、他のゴミと一緒に飲み込まれたであろう、殺して潰して丸めたムカデのことが頭の片隅にちらついたが、鮮明に思い出すほどの思い出はなかった。退治すべき害虫に過ぎない。

「本当に適当ですね。それだけ適当につけたなら、人名に変えても名残惜しくはないですよね」

「そうですね。カナデさんの好きなように呼んでください」

「俺が決めていいんですか?」

「どうぞ。あまり変な名前にはしてほしくないですが」

「悩みますね」

 悩んでいるようには見えなかった。カナデも彼と同じで表情が大きく変わることがないため、依然として真意が掴めない。胡乱な顔の裏側では、一体何を思考しているのだろう。

 彼は間を埋めるように、本日二口目のコーヒーを飲む。普段はカフェオレといった甘めのものばかりを好んで飲んでいるが、たまにはコーヒーのようなほろ苦いものを口にするのも悪くはないと思っていた。悪くはないだけで、残念ながらカフェオレには負けてしまう。

 コーヒーを味わった後、彼はカナデの様子を窺った。へらへらとも、にやにやとも、にこにことも表せない薄ら寒い笑みを浮かべている。その不敵な微笑で内面を隠すカナデが、無表情を貫くことで裏側を隠す彼を見つめ、唇を開いた。