カナデは人を騙すことに慣れている。嘘を吐くことに慣れている。一切目を逸らすことのない様子から、人を欺いたことに罪悪感を抱いているとは到底思えない。

「カナデさんとは初対面のはずですが。それなのに俺に興味があるんですか」

「それも含めて話しますから。少し込み入った内容でもあるので、人に聞かれると困るんですよね。あなたもそうじゃないですか? それなりに殺ってるんじゃないかと俺は思ってますが」

 やるが確実に殺る方だった。つまりは彼が殺っていることに関連する話をするということか。確かにそれを他人に聞かれるのは困るが、あなたも、とカナデは言っている。すなわち、カナデも、何か人に聞かれては困ることをやっているということか。

「どうぞ。上がってください」

 カナデの意図が知れないまま蜻蛉返りしてしまうと、胸を覆っている大量の霧が晴れなくなる。殺しに来たのに殺さずに帰ってしまうことも、長時間の運転の元を全く取れなくなる。

 胸をすっきりさせ、尚且つ元を取るには、カナデと話をすることが必須だ。避けては通れない。

「長話はあまり好きではないので、手短にお願いできますか」

「難しい注文ですが、お気に召すように努力しますね」

 彼はカナデの部屋へと足を踏み入れた。後ろでカナデが扉を閉め、鍵をかける。その音がする。

「好きな場所に座ってください」

 中へ案内され、腰を下ろすよう促された。部屋の壁の角に沿うようにベッドが、その線対称に位置する場所にはテレビが、中央には机が配置されている。彼は机の前に静かに座った。扉に背を向けた位置を選んだ。

 腰を落ち着けた彼は、不躾に室内を見回す。部屋の間取りは彼のアパートと多少違うが、広さは同じくらいだろうか。物が少ない印象だった。生活に必要な最低限の物しかないように見える。かくいう彼の部屋も似たり寄ったりである。人のことを悪くは言えない。男の一人暮らしはこんなものなのかもしれない。