やりとりをする際に覚えた違和感は気のせいではなかったのだと思い知らされる。此奴は違う。明らかに違う。

 決して部屋を間違えたわけではない。そうではない。顔を出したこの男はカナデで間違いないはずだ。

 一目見て違うと感じたのは、カナデが自殺志願者であることだ。

 明らかに、カナデは死にたがりの人間ではない。人生に絶望している人間ではない。そのような人間の目には大抵光がないが、カナデにはある。その上で、胡散臭い笑みを浮かべている。

「やっと来てくれましたね。待ってましたよ。ずっと」

 いつ行くと知らせてもなければまだ名乗ってもいないのに、カナデは初対面の彼が何者であるのか分かっている様子だった。

 癪に障るが、カナデに騙されていたことは理解した。誘き出されていたことも理解した。しかし、その理由が判然としない。自殺志願者を装ってまで自分を釣ったのはなぜなのか。

「いろいろ聞きたいこともあると思いますから、中で腰を据えて話しませんか?」

 疑問を読み取られ、先回りされたような感覚に陥る。完全に主導権を握られている。言われるがままは不愉快だったため、彼は一旦形だけの抵抗を挟んだ。

「部屋にいるのはカナデさんだけですか」

「カナデ……」

「アカウント名がカナデですから」

「ああ、それならあなたはゴミ箱さんですね」

 適当に決めたのは自分だが、いざ口に出して呼ばれると侮辱されている気分になる。カナデは彼の名前をそれ以外で知らないため、名前に関してはカナデに非はない。全て自分の責任だ。

「部屋には俺以外いませんよ。一人暮らしですから」

「一人で全て計画したと踏んでいいということですか」

「そうですね。個人的にあなたに興味があるので。直接会って話をするために誘い出しました」

 騙していたことを暗に認めている表現だった。そしてそれに申し訳なさを覚えている風でもなかった。