そうだ。行くしかない。最初からそのつもりで、カナデにメッセージを送ったのだから。

 無機質なナビの指示に従い、彼はハンドルを操作し続けた。

 カナデに騙されているかもしれないという猜疑心と、しかし自分は今、人を殺しに行っている最中なのだという高揚感が胸を覆い尽くしている。

 心躍る展開のはずだが、相反する感情が綯い交ぜになっていて、どうにもすっきりしなかった。到着してはっきりさせるまでは、どっちの気分にも片足を突っ込んでいる不安定な状態は続く。

 県を跨いでの長時間の運転だった。彼は時折休憩を挟みながら、着実に目的地へと車を進めた。

 まだ明るい時間にアパートを出たが、今は既にヘッドライトが必須になっていた。ただでさえ慣れていない道でもあるため、無駄な事故を起こして警察のお世話にならないように、予定にないことで顔と名前を記憶されないように、より一層集中し、気を引き締める。緊張感を持って、ハンドルを握り直す。

 今日殺しに行くことはカナデに伝えていないが、夜であればいつでもいいというのだから突然訪ねても大丈夫だろう。目を見て文句を飛ばされたとしても、追い返されることはないはずだ。何日の何時に行くと日時を指定する方が却って不安で、今更だった。

 ヘッドライトの先で、カナデが住んでいるというアパートが見えてきた。県名ばかりに気を取られていたが、カナデは自分と同じアパート住まいである。若干の親近感を覚えつつも、まだ気を緩めるべきではなかった。

 ナビが目的地周辺であることを告げる。彼は建物の隣の広場の、邪魔にはならないであろう隅の方に停車し、辺りをよく見回した。人気はない。不審な車両も見当たらない。

 スマホで時刻を確認する。既に九時を回っている。夜といっても、人の家をアポなしで訪ねるのには迷惑になりそうな時間だったが、夜は夜だ。彼は無言で理屈を捏ねた。