それに慣れてしまっていたせいか、今回初めて引き当てた、導く必要のない能動的な殺し相手を前に、指の動きが止まってしまう。

 本当に、カナデは死にたがっている人間なのか。

 ここにきて急激に熱が冷め、クリアしたはずの初期段階の疑問が頭を擡げた。今度は彼がカナデを疑う番だった。

 自殺志願者を狙っている殺人鬼がいることが警察内部で共有されていて、その殺人鬼を誘き出すために、カナデという本名かも偽名かも分からない人物が死にたがりを演じているのではないか。文字だけなら、誰でも、いくらでも、嘘を吐ける。

 突飛な妄想が、それでいて、ないとも言い切れないような妄想が、脳内を駆け巡る。彼はお茶を飲んで深く息を吐いた。

 少し時間を置くべきだ。早く話を進めて殺しに行きたいが、カナデに急かされるままに返答していては足を掬われてしまうかもしれない。例え些細なことであっても、覚えた違和感は無視しない方がいい。

 あくまで殺すのはこちらだ。殺しに行かされるのではなく、こちらが殺しに行くのだ。カナデがサクラだろうがサクラじゃなかろうが、主導権を握られるのは性に合わない。

 緩んでいる手綱を引っ張って、カナデを上手く取り扱おうと企図する中、そのカナデから追加でメッセージが送られた。

【返信待ち切れないので、先に住所送っておきます。ここです。夜だったらいつでもいいです。殺しに来てください。俺はあなたを信じることにしました】

 胸がずしりと重くなる。誘き出されているのかいないのか。今は冷静に判断ができない。ただの偶然に過ぎないだろうが、猜疑の目を向けてしまった今となっては、それは追い打ちをかけるものと化していた。

 カナデの住まいは、以前殺害した女の住まいと、全く同じ県にあった。