まだ上手く事が進んだわけでもないのに、彼はもう既にカナデを殺すことを想像してしまっていた。

 想像が現実になる瞬間は、何度経験してもいいものだ。殺しというものはいいものだ。殺すことができなくなるまで、一人一人時間をかけて殺していたい。

 人知れず逸る気持ちを抑えるように、ペットボトルのお茶を体内に流し込んだ。身体の内側を伝っていく冷たさが妙に心地良い。

 殺しの対象として選択したカナデから新たな返信が来たのは、それから僅か数分後のことだった。死を望むカナデの一日がどのように過ぎていくのか知る由もないが、今朝はメッセージに返信をする余裕があることが窺える。レスポンスが早いのは都合が良い。

【分かりました。死ねるのなら、何でもいいです】

 口角が持ち上がりそうになった。彼は咄嗟に表情筋に力を入れて、平常心を保とうとする。誰にも見られる心配はなくとも、誰にも見えないところでしてしまう癖は、ふとした時に人前で表れてしまう恐れがある。彼はそれを懸念していた。

 文字に嬉々とした感情が乗り過ぎないように注意しながら、早速殺す日程を組む旨を伝えてカナデをリードする。つもりだったが、思っていた以上にカナデは前のめりだった。

【殺しに行くということは、俺の住所をお伝えすればいいですか?】

 彼が先導せずとも、勝手に横か、もしくは前を歩いている。引っ張られているのはこちらなのか。

 話が早いのも切り替えが早いのも助かるが、どこか妙に思ってしまうほどカナデは積極的だった。自殺志願者にしては珍しいタイプのように思える。

 これまで殺してきた人たちは皆、彼が手綱を引いて導いてやらなければほとんど動かないような人たちだった。受動的な態度だったのだ。