「ありがとうございました」
男が店を出る時に、店長と同様、お決まりの台詞を彼も声に乗せる。見送られた男は振り返ることなくコンビニを離れ、深夜の道を徒歩で帰って行った。
やはり気持ちいい程度の酔いなのだろう。目に見えて分かるほどのふらつきはなかった。迷惑をかけない酒飲みなら、警察沙汰になることもなさそうである。
「さっきのお客さん、身長あったし体つきも良かったから、ちょっとだけ威圧感あったね」
店内を彷徨いてからレジに入ると、緩い口調の店長が暇を潰すように雑談を始めた。仕事中に客について話すことはあまり良いとは言えないが、店内に客の姿はない。関係ない誰かに聞かれる心配はなかった。
「そうですね」
彼はレジに置いてある椅子に腰掛けながら頷いた。そうしながら、共感して相手に気持ちよく話をさせようとする癖がここでも発揮されてしまったことに気づいたが、共感した側から否定的な返答に訂正するのも違う。頷くだけ頷いたものの、先は続けなかった。
彼は店長と違って、例の客に威圧感までは覚えていなかった。店長は大人の男性にしては小柄な体型である。男とは頭一つ分以上の身長差があった。目の前に立たれたら、相手の意図はなくとも圧を感じてしまうのは致し方ないだろう。
「お酒飲んでるなと思って警戒したけど、酔ってる人特有の面倒臭さというか、態度の悪さというか、そういうのはなかったから安心したよ。あれで変に絡まれたり高圧的に迫られたりしてたら怯んじゃいそうだった」
そう言いながらも、店長はにこにこと笑みを浮かべている。彼に対して緊張も警戒もしている様子はない。怪しく思われてはいないということだ。
元々穏やかな店長は彼に気を許してくれているようだが、彼自身は心を開きすぎないようにしていた。それは店長だけでなく、他の仕事仲間でも同じである。あまり踏み込まれすぎないように、ある程度の距離感を保つよう常に意識しているのだ。
男が店を出る時に、店長と同様、お決まりの台詞を彼も声に乗せる。見送られた男は振り返ることなくコンビニを離れ、深夜の道を徒歩で帰って行った。
やはり気持ちいい程度の酔いなのだろう。目に見えて分かるほどのふらつきはなかった。迷惑をかけない酒飲みなら、警察沙汰になることもなさそうである。
「さっきのお客さん、身長あったし体つきも良かったから、ちょっとだけ威圧感あったね」
店内を彷徨いてからレジに入ると、緩い口調の店長が暇を潰すように雑談を始めた。仕事中に客について話すことはあまり良いとは言えないが、店内に客の姿はない。関係ない誰かに聞かれる心配はなかった。
「そうですね」
彼はレジに置いてある椅子に腰掛けながら頷いた。そうしながら、共感して相手に気持ちよく話をさせようとする癖がここでも発揮されてしまったことに気づいたが、共感した側から否定的な返答に訂正するのも違う。頷くだけ頷いたものの、先は続けなかった。
彼は店長と違って、例の客に威圧感までは覚えていなかった。店長は大人の男性にしては小柄な体型である。男とは頭一つ分以上の身長差があった。目の前に立たれたら、相手の意図はなくとも圧を感じてしまうのは致し方ないだろう。
「お酒飲んでるなと思って警戒したけど、酔ってる人特有の面倒臭さというか、態度の悪さというか、そういうのはなかったから安心したよ。あれで変に絡まれたり高圧的に迫られたりしてたら怯んじゃいそうだった」
そう言いながらも、店長はにこにこと笑みを浮かべている。彼に対して緊張も警戒もしている様子はない。怪しく思われてはいないということだ。
元々穏やかな店長は彼に気を許してくれているようだが、彼自身は心を開きすぎないようにしていた。それは店長だけでなく、他の仕事仲間でも同じである。あまり踏み込まれすぎないように、ある程度の距離感を保つよう常に意識しているのだ。



