世の中には、所謂迷惑系YouTuberという者がいるようだが、人に迷惑をかけてまで誰かに見てもらおうとするその心理が彼には理解できなかった。文字通り、迷惑極まりない承認欲求である。

 何か珍しいことがあればすぐにスマホで撮影して投稿する時代だ。酎ハイをカゴに入れている茶髪の男が飲酒運転をしていたとして、もしそれで事故でも起こせば、深夜であっても好奇心旺盛な野次馬が多数集まるだろう。スマホを向けられるのは想像に難くない。飲酒運転で事故、などとタイトル付けされた動画は瞬く間に拡散され、事故を起こした若者は誹謗中傷に晒される。顔の見えない誰かのストレスの捌け口にされる。

 悪いことをした人には、いくらでも攻撃をしてもいいというような風潮があった。客観的に見て、殺人鬼と言わざるを得ない彼もまた、起こした事件が公になってしまえばその対象になってしまうに違いない。

 こっちは死にたがっている人間の望みを叶えるために殺しているだけなのに。殺すようお願いされてから殺しているのに。相手に許可を貰ってから殺しているのに。無差別でも怨恨でもないのに。

 酒を飲んでいても判断力が低下しているほどではない男が、レジに商品を持って行く様子を彼は遠慮もなく眺めた。カゴの中には酎ハイだけでなく複数のつまみも入れられていた。

 それまで暇そうにしていた店長の表情や態度が、瞬時に客用のそれに切り替わる。丁寧な所作で商品のバーコードを通していく店長と、スマホと財布を手にして静かに待っているほろ酔い気味の男を尻目に、彼は棚の整理をしている風を装った。綺麗にしてからは、彼以外まだ誰も触っていなかった。

 会計が終わり、店長がマニュアルに沿った言葉を口にする。男はレジ袋も購入したようで、歩く度にガサガサとナイロンの擦れる音がしていた。缶が何本も入っているためかなりの重量があるはずだが、長身の男の体格がいいのもあってか、全く重そうに見えなかった。