例え複数の殺人を犯していようとも、社会に溶け込めていれば、変に浮くことはない。挙動不審になることなく堂々としていた方がいい。様子のおかしい人間は、嫌でも目立ち、記憶にも残り、誰からも忌避されてしまうのだ。

 レジでぼんやりとしている店長と二人きりの店内に、客の来店を知らせる曲が響いた。雑誌コーナーは出入り口のすぐ近くだ。

「いらっしゃいませ」

 彼はマニュアル通りの挨拶をしながら、手にしていた本を閉じて棚に戻した。その後、何食わぬ顔をして仕事をしているふりをする。

 入って来た客を一瞥した。若い男である。茶色に染めた髪を無造作に遊ばせているその見た目からは、彼よりも少し年下の二十代前半に見えた。付き添いはいない。

 男はカゴを持って飲料コーナーへ向かった。ほとんど吟味することなく、適当な酎ハイを何本も入れていく。買い溜めにしても多すぎるのではないか。

 一人で飲む量とは思えなかったため、友人と集まって徹夜でパーティーでもしているのだろうと彼は推測した。年齢に大きな開きはないだろうが、男は自分よりも身長が高く、体躯もよく、飲酒をして徹夜をしても体力は有り余っていそうだった。

 横目で男の様子を窺うと、その顔が少しだけ赤く火照っていることに気づく。予想通り酒を飲んでいるようだが、飲む量のコントロールはできているのか、足取りはそれほど悪くはない。悪くはないからこそ、気になることがある。

 彼は駐車場に顔を向けて目を凝らした。見た限り、自分や店長の自動車以外で、車やバイクなどは停まっていない。流石にそこまで羽目を外してはいないらしく、テレビだったり配信された動画だったりで目にすることのある迷惑系の人間ではないようだ。