後輩が刺されようとも人が人を刺そうとも、全くパニックになることなく、彼は二人の元へ近づいていた。もう一人の店員を刺すために後輩の腹部から刃物を引き抜こうとした男の手を、恐怖心もなく掴んで止める。凶器がなければ強くなれない男は遮二無二引き抜こうとするが、彼の力の方が強かった。
「じっとしてください。顔に蚊が止まってますので」
止まっていない。付近に蚊すらいない。平然と嘘を吐いた彼は、蚊を殺すためだと暗に仄めかし、男の頬を加減も躊躇もなく引っ叩いた。男が反射的に頬を押さえる。刃物の柄から手が離れた。
「逃げられてしまいました。でも蚊に感謝ですね。平手打ちで目が覚めたようですので、早く救急車を呼んでくれませんか」
「あ、あ、ぼ、ぼく……、ぼく、ぼくは、なんてことを……」
頬を叩かれたことで我に返った男は、よろよろと後輩の上から退き青ざめた顔でわなわなと唇を震わせた。彼の声は届いていない。専ら自分のした行動に恐れを抱くのみである。
使えないと瞬時に見切りをつけた彼は、声も出せないほどの激痛に脂汗を流す後輩に、刃物は抜こうとしないでください、と落ち着いた口調で告げた。
レジにある子機を取りに行き、救急車を呼ぶ。状況や後輩の容態を説明し、結局、警察にも来てもらうことになった。人が刺されてしまった以上、警察の介入は避けられない事案である。犯人は頭を抱え、戦意喪失している。逃走することはないだろう。
救急車が来るまで、彼はオペレーターに指示された通りに応急手当を施し、出血を防いだ。後輩の意識はまだある。
善人であるコンビニ店員として後輩の命を繋ぎながらも、どうしてこうも大なり小なり事件の被害に遭ってしまうのだろうと彼は溜息を吐きたくなった。
事件を携えて来た、今はもう意気消沈している犯人の男を脳内で刺し殺す。滅多刺しにして殺す。次に誰かを殺す時は、手順はどうであれ、絶対に身体に無数の穴を空けることを彼は密かに決意した。
「じっとしてください。顔に蚊が止まってますので」
止まっていない。付近に蚊すらいない。平然と嘘を吐いた彼は、蚊を殺すためだと暗に仄めかし、男の頬を加減も躊躇もなく引っ叩いた。男が反射的に頬を押さえる。刃物の柄から手が離れた。
「逃げられてしまいました。でも蚊に感謝ですね。平手打ちで目が覚めたようですので、早く救急車を呼んでくれませんか」
「あ、あ、ぼ、ぼく……、ぼく、ぼくは、なんてことを……」
頬を叩かれたことで我に返った男は、よろよろと後輩の上から退き青ざめた顔でわなわなと唇を震わせた。彼の声は届いていない。専ら自分のした行動に恐れを抱くのみである。
使えないと瞬時に見切りをつけた彼は、声も出せないほどの激痛に脂汗を流す後輩に、刃物は抜こうとしないでください、と落ち着いた口調で告げた。
レジにある子機を取りに行き、救急車を呼ぶ。状況や後輩の容態を説明し、結局、警察にも来てもらうことになった。人が刺されてしまった以上、警察の介入は避けられない事案である。犯人は頭を抱え、戦意喪失している。逃走することはないだろう。
救急車が来るまで、彼はオペレーターに指示された通りに応急手当を施し、出血を防いだ。後輩の意識はまだある。
善人であるコンビニ店員として後輩の命を繋ぎながらも、どうしてこうも大なり小なり事件の被害に遭ってしまうのだろうと彼は溜息を吐きたくなった。
事件を携えて来た、今はもう意気消沈している犯人の男を脳内で刺し殺す。滅多刺しにして殺す。次に誰かを殺す時は、手順はどうであれ、絶対に身体に無数の穴を空けることを彼は密かに決意した。



