彼は探すのを協力し、後輩と一緒になって床を見下ろした。金を落としてしまった時、まさかと思う所にまで転がっていることがある。そこにはないだろうと期待できないような所にまで目を向けてみると、床にぽつんと取り残されている五十円玉にピントが合った。レジの外にまで転がっていた。彼は蚊を摘んだ所作と同じ所作で硬貨を摘んだ。

「ありました」

「え、秒で見つかったじゃないっすか。どこにあったんすか?」

「レジの外です」

「まさかすぎてそこまで見てなかったっす。ありがとうございます」

 目を見開き、次いで笑みを見せる素直な後輩は、彼から五十円玉を受け取り、自動釣銭機の投入口に入れた。機械が作動し、五十円玉を飲み込んだ。

 すぐに発見できる場所に倒れてくれていて良かったと彼は思う。いくら探しても見つけられず、まるで神隠しにでもあったかのように行方不明となる不思議な現象が起きたこともあったため、そうはならずに済んだことに安堵した。店員も客も含め、誤って小銭をばら撒いてしまった時に探し出せなかった金は、今もどこかに放置されているだろう。見つかっても誰のものか分からないため、募金にされる確率が高かった。

「それにしても、今日は本当に静かで平和っすね。嵐の前の静けさみたいな感じじゃないっすか?」

「だとしたら不穏すぎますね」

 彼は冷静に突っ込んだ。後輩が金を落としたことも、嵐の前の静けさという言葉が出てくることも、考えようによっては不穏そのものである。警察沙汰になるような大事なことは何も起きなくていい。起きてほしくはない。

 後輩が感じている不吉な予感から目を背け、彼は蚊を殺した売場へ戻ろうと歩みを進める。彼の後を追うように後輩もレジから出たちょうどその時、出入口の扉が勢いよく開いた。