「叩くような音したっすけど、なんかあったんすか?」
「蚊がいたので殺しただけです」
「蚊っすか? 一発で仕留めたんすね。流石っす」
「手洗ってきます」
「了解っす」
話が長くならないよう、早めに後輩に断ってからバックヤードへと向かった。まっすぐ休憩室へ入り、手洗い場の蛇口を捻る。落ちる水の中に手を入れて洗いながら、近いうちにまた人を殺したいという願望の芽が花開いた。蚊如きで満足できるはずもなく、中途半端に刺激された欲求が目を覚まし、むくりと起き上がってしまったのだった。
殺す予約をしているカナデの金蔓は、いつになったら殺せるだろうか。カナデからの吉報はまだない。
間に別の殺しを挟めるか否か確認するためにもこちらから連絡をしてみるか、と仕事が終わってからすることを決めた彼は蛇口を閉めた。手を振って水気を切り、自然乾燥させる。ハンカチの類を持参しているような男ではなかった。
店内に戻ると、後輩がレジに立っていた。彼がいない少しの間に来店した客を捌いたばかりのようだが、後輩は不意にしゃがみ込み何やら床を見回し始めた。物探しをしているような顔つきであり、時折首を傾げている。見て見ぬ振りをする手もあったが、些細な出来事が後で大きな問題に繋がることもないわけではない。そうなった場合に咎められたくない彼は、困っている様子の後輩に近づいた。
「どうしたんですか」
「あ、先輩。いや、さっきちょっと受け取ったお金を落としちゃったんすよ。一枚だけ、どこに転がっていったのか分からなくて、全然見つからないんすよね」
「何円ですか」
「五十円すね」
決して騒ぎ立てるような金額ではないが、精算をする際、一円でも五円でも合わなければ違算として処理されてしまう。金銭を取り扱う以上、そこはしっかりしておかなければならなかった。
「蚊がいたので殺しただけです」
「蚊っすか? 一発で仕留めたんすね。流石っす」
「手洗ってきます」
「了解っす」
話が長くならないよう、早めに後輩に断ってからバックヤードへと向かった。まっすぐ休憩室へ入り、手洗い場の蛇口を捻る。落ちる水の中に手を入れて洗いながら、近いうちにまた人を殺したいという願望の芽が花開いた。蚊如きで満足できるはずもなく、中途半端に刺激された欲求が目を覚まし、むくりと起き上がってしまったのだった。
殺す予約をしているカナデの金蔓は、いつになったら殺せるだろうか。カナデからの吉報はまだない。
間に別の殺しを挟めるか否か確認するためにもこちらから連絡をしてみるか、と仕事が終わってからすることを決めた彼は蛇口を閉めた。手を振って水気を切り、自然乾燥させる。ハンカチの類を持参しているような男ではなかった。
店内に戻ると、後輩がレジに立っていた。彼がいない少しの間に来店した客を捌いたばかりのようだが、後輩は不意にしゃがみ込み何やら床を見回し始めた。物探しをしているような顔つきであり、時折首を傾げている。見て見ぬ振りをする手もあったが、些細な出来事が後で大きな問題に繋がることもないわけではない。そうなった場合に咎められたくない彼は、困っている様子の後輩に近づいた。
「どうしたんですか」
「あ、先輩。いや、さっきちょっと受け取ったお金を落としちゃったんすよ。一枚だけ、どこに転がっていったのか分からなくて、全然見つからないんすよね」
「何円ですか」
「五十円すね」
決して騒ぎ立てるような金額ではないが、精算をする際、一円でも五円でも合わなければ違算として処理されてしまう。金銭を取り扱う以上、そこはしっかりしておかなければならなかった。



