少しだけ前のめりになった女性が、レジ奥にずらりと並んでいる煙草の番号を目で探り始める。女性が目当ての銘柄を見つける前に、後輩の手が先に動いた。
「いつも購入していただいているのはこちらだったでしょうか?」
「あ、そうです。すみません、ありがとうございます。まさか覚えてくださっているとは、お恥ずかしい限りです」
恐縮する女性は腰が低かった。相手が年下であっても店員でありまた他人でもあるからだろう、敬意を払っているのがよく分かる。年下で若い店員だからとタメ口で気さくに話しかけてくる客もいるが、女性はそのような親しみを込めて話すタイプの客ではないようだった。どんな人間とも一定の距離を保ちたい彼にとっては、敬語を使わない客よりも使ってくれる客の方が不満はない。店員との距離が近くないこの女性は良客だと言えた。
深夜の常連客である女性がどの銘柄の煙草を購入しているのか覚えていた後輩は、にこにこと愛想の良い笑顔を見せながら女性客の対応をする。
後輩はよく笑う人間だった。表情も感情も豊かで、暗い雰囲気は一切ない。そのため、彼と並ぶと明暗がはっきりしてしまうのだった。
彼はもう何年も笑っていない。最後に笑ったのはいつだったか、それすらも思い出せない。
笑い方を忘れてしまいそうなほどに笑っていなかったが、だからどうしたというわけでもない。笑わないのが彼である。それを周りの人間も知っている。おかしなことは何もない。彼は感情を決して顔に出さないクールな人間であるだけだった。
煙草一箱のみの会計を済ませ、会釈をしながら礼を言って帰っていく女性を、後輩はまた元気よく送り出した。彼も口を開いた。心が籠もっているかいないかで言えば、それほど籠もってはおらず、マニュアルを読んでいるだけかのような淡々とした声だった。
「いつも購入していただいているのはこちらだったでしょうか?」
「あ、そうです。すみません、ありがとうございます。まさか覚えてくださっているとは、お恥ずかしい限りです」
恐縮する女性は腰が低かった。相手が年下であっても店員でありまた他人でもあるからだろう、敬意を払っているのがよく分かる。年下で若い店員だからとタメ口で気さくに話しかけてくる客もいるが、女性はそのような親しみを込めて話すタイプの客ではないようだった。どんな人間とも一定の距離を保ちたい彼にとっては、敬語を使わない客よりも使ってくれる客の方が不満はない。店員との距離が近くないこの女性は良客だと言えた。
深夜の常連客である女性がどの銘柄の煙草を購入しているのか覚えていた後輩は、にこにこと愛想の良い笑顔を見せながら女性客の対応をする。
後輩はよく笑う人間だった。表情も感情も豊かで、暗い雰囲気は一切ない。そのため、彼と並ぶと明暗がはっきりしてしまうのだった。
彼はもう何年も笑っていない。最後に笑ったのはいつだったか、それすらも思い出せない。
笑い方を忘れてしまいそうなほどに笑っていなかったが、だからどうしたというわけでもない。笑わないのが彼である。それを周りの人間も知っている。おかしなことは何もない。彼は感情を決して顔に出さないクールな人間であるだけだった。
煙草一箱のみの会計を済ませ、会釈をしながら礼を言って帰っていく女性を、後輩はまた元気よく送り出した。彼も口を開いた。心が籠もっているかいないかで言えば、それほど籠もってはおらず、マニュアルを読んでいるだけかのような淡々とした声だった。



