「先輩って本当にかっこいいっすよね。彼女もずっと推してるんすよ。もちろん俺も推してるっす。おまけに俺は惚れてもいるんすよ、マジで。俺みたいに先輩に惚れてる人は結構いそうっすけど、心当たりとかないんすか?」

 積極的で暑苦しい後輩のテンションが上がっている。この状態が長く続くと疲れてしまう未来が見えた。後輩が喋れば喋るほど、彼の気力はじわじわと奪われていく。

 彼女持ちでありながら彼女以外の誰かに惚れているとはにかむこともなく自信を持って言ってみせる後輩と、初対面で惚れた後から事あるごとに惚れ直しているという掴みどころのないカナデとが微妙に合わさったが、性格が不一致すぎるあまり同極を突き合わせた磁石のように即座に弾かれた。

 後輩とカナデなら、カナデといる時の方が害のない人間を演じなくて済む分、気が楽なことに彼は今になって実感した。どちらかを殺すような状況に陥ったら、迷わず後輩を殺すかもしれない。

「心当たりはありません」

 カナデのことを思い出していたが、彼は完全否定した。馬鹿正直に答える気はない。カナデの存在を後輩に打ち明けると後々面倒そうである。計画に支障をきたすような真似はできなかった。

「ないんすか? じゃあ先輩が気づいてないだけかもしれないっすね」

 心当たりがあったところで自分で心当たりがあると肯定するのもいかがなものかと彼は思った。ナルシストのような自己に陶酔しがちな人間であればよくぞ聞いてくれたとばかりに自信満々に答えるのかもしれないが、彼は自分にも他人にもそれほど関心がない冷酷な人間でしかなかった。

「彼女含め俺を推すとか惚れているとか変わってますね」

「変わってるなんてそんなことないっすよ。先輩自己肯定感低すぎじゃないっすか? 先輩は本当にマジでめちゃくちゃ魅力的な人なんで、もっと自信持っていいと思うんすよね」

「そうですか。あまり興味はないですね」