突然の出来事を前に、必死に状況を理解しようとするかのような数秒の沈黙がその場に落ちる。彼はその間に、抵抗しようとする男子の膝裏を乱暴に蹴り、次いで背中を足で踏んで押し、首にパーカーを食い込ませた。男子は両手で首に隙間を作ろうとしている。金属バットは手放されていた。

「お、おい、冗談だろ……。お前、何だよ、誰だよ、いきなり何して……。おい、やめろ、やめろよマジで……」

 強気な態度はどこへ行ったのか。完全に動揺している一人の男子は、スマホを持つ手を震わせながら弱々しい声を上げた。逃げることも助けることもできずに慄いている。

 一人は腰を抜かしたようなリアクションだったが、もう一人は何やら叫びながら果敢に挑もうと襲いかかってきた。彼は人を踏んで首を絞めたまま顔を上げた。迫る男子と目が合うと、男子の方が萎縮する。彼は霊すらも怖気付きそうなほどの無表情だった。それでも彼の中には、これまでと同じように滾るものが確かにあった。

「これは君たちの手に渡ると危ないので、こちらでお預かりしますね」

 彼の影に隠れていたカナデが、怖がらせないようにとばかりに明るく宣いながら、地面に転がっている金属バットを伸ばした服の袖を使って拾った。その行動を、この場にいる男子たちは誰も止められない。予期せぬ異様な闖入者二人にひたすら混乱している様子だった。彼らはそれを意に介さず、計画を遂行する。

「まだ死んでないですか?」

「死んでもしっかり殺すことが大事ですから」

「それならこれで殴った方が余計な体力を使わなくて済みそうですよ」

 カナデが預かると称して拾った金属バットを我が物顔で差し出してきた。結局はそれで殴り殺すつもりでいたため、指示をしなくても当然のように凶器を入手してくれたカナデの行動はありがたかった。本人にそのつもりはないかもしれないが、気が利く男である。