「お姉ちゃん……お姉ちゃんっ! どこぉ?」
あれは四歳か五歳の頃だっただろうか? あの頃は何かと言っては姉さんの後ろを追いかけていて、あの時も北の岩場の森へ真珠を採りに行くと言い、こっそり出掛けた姉さんについて行ったけれど、途中ではぐれて独り泣いていたんだ。
ごつごつした岩の隙間を探しながら、どんどん暗い岩陰に進んでしまって、もう自分が何処にいるのか、どちらへ帰ればいいのかも分からなくなって、顔を両手で覆い立ち尽くしていた。
「ティアラ? ティアラ! 良かった~見つかった!」
そんな迷子の私を見つけてくれたのは……
「ジョエル……お兄ちゃん?」
──いつも貴方だった。
「もう大丈夫だよ、ティアラ。だから泣かないで。さ、帰ろう」
「お姉ちゃんはっ?」
目の前にはにっこり笑って手を差し伸べる貴方がいた。どうして見つけてくれたの? どうやって私の居場所が分かったの? 不思議なくらい、いつも気付けば貴方がいたの。
「アモールなら森の入口で待ってるよ。ティアラがいなくなったって慌ててた。一緒に探すと言ったけど、またはぐれても困るし、ティアラが自分で出てくるかもしれないと思って、そっちに待たせてあるよ」
そうして驚くくらい自然に私の右手を取って、笑顔を絶やさず誘導してくれた。
「母様に……話す?」
これが知れたら二人共大目玉だ。
「ん? もちろん内緒にするよ。だから早く笑ってみせて?」
「……うん」
迷子になったことも泣いていたことも、全部恥ずかしくてすぐには笑顔を見せられなかったけれど、貴方の向ける言葉は優しくて、笑顔は眩しくて、いつの間にかいつもの自分に戻っていたのを今でも良く覚えている。
──ありがとう……ジョエルお兄ちゃん……。

私は深い闇の中で、夢から醒めて瞼を開いた。
あれから心配顔の姉さんとも再会出来て、東の館に戻った私は疲れて眠ってしまって、目が覚めた時にはもうジョエルは帰ってしまっていた。
ちゃんとジョエルにお礼が言えなかったからなのか、いなくなったことが淋しかったのか、また泣いていたのだったと思う。
私はいつからジョエルを『お兄ちゃん』と呼ばなくなったのだろう?
ジョエルはいつから私を『ティア』と呼ぶようになったのかしら?
そして……いつから貴方に手を繋がれることを、恥ずかしく思ってた?
本当はずっと握っていてほしかったのに。母様に挨拶するように、手の甲に口づけされたかったのに。
──でも。
今はこうして瞳を向ければ、右手の先に貴方がいる──。
「ん……ティア? もう、朝……?」
繋いだ手に微かに力を込めたのを感じ取ったのか、隣でこちらを向いて休んでいた貴方は目を覚ましてしまった。
「ううん。起こしちゃってごめんなさい。夢、見てたみたい」
ルラの石の淡い碧の光に浮かび上がった口元が、寝言みたいに言葉を零す。
「どんな……夢? 僕も出てきた?」
そうして開いたブルーグリーンの瞳が、私をその中に映し込んだ。
「で、出てこなかった……私、独りだけ」
出てきただなんて話したら、根掘り葉掘り訊かれてしまいそうだ。
「そう……残念」
本当に残念そうな顔をするのね。再び閉じた瞼は少し拗ねて見える。
「まだ朝まで長いわ。ゆっくり眠って」
自分の空いた左手で、おば様譲りのホワイト・ゴールドの髪を撫でた。柔らかい髪。おじ様と同じだった榛色の時と、どちらが好きだろう。
「もう目が覚めたよ、ティア」
はっきりとした口調のその言葉と共に、突然目の前に意地悪そうな瞳が現れ、自分の上に優しく美しい髪が降り注いだ。──どうも、彼の心に火を点けてしまったみたい……。
「愛してるよ……“ティアラ”」
真面目に何かを伝えたい時に『ティアラ』と呼ぶの、もう口癖ね。
『ティア』の方が普通になってしまった今、改めてそう呼ばれるのは、とても大切にされている感じがして、少しこそばゆいけれど。
ゆっくりと深く濃い口づけが、私の唇に舞い降りる。
そしてすかさずテーベの石にキスするの、もう早業の域なんじゃないかしら。
ややあって自分の眼下で発生した真白い光が、私の身体を温かく覆い包み込んだ。不思議な感覚。でも今はもう、こちらの方が自然なくらいかもしれない。
「はい、ティア?」
自分でキスしても魔法は掛かるのに、どうしても私にさせたいの?
苦笑いしながらも、私も貴方の守護石に唇を寄せた。
やがて同じ純白の光が彼を纏い、現れた筋肉質な貴方の脚が、私のそれに絡みつく。この時ばかりはお互いの身体が空気の膜に守られるから、水に邪魔されない肌の質感が、温かくて心地良くて、そして何だか恥ずかしかった。
次に貴方は私の空気の中で深呼吸をした。
彼曰く、薔薇の香りがするのだとか。
額に、瞼に、頬に、再び唇に戻ってきた口づけが離れた時、隣の小さな寝台から、すがるような泣き声が、視線を合わせた彼の動きを止めた。
「……あの子達が、呼んでるわ」
「ふ……む。親の恋路を邪魔するとは、まったく良く出来た子供達だね」
目の前で一瞬がっかりした表情を見せつつも、嬉しそうに彼は身を起こし、大合唱となった小さな二つの身体を抱き上げた。
「こんな時間にどうしたの、可愛い子達? ん? お腹空いた? その食いしん坊、誰に似たの? モカおばちゃんかい?」
おどけた言葉であやす姿は、もうすっかり父親かしら。
「ティア~、パパじゃダメだってさ。こういう時ばかりは母親に敵わないよ」
私はクスッと笑って寝台から起き上がった。長めのシャツの向こうに見える、自分にはもったいないくらいの白く細い脚で立ち上がって、困り顔の貴方の許へ向かった。
「ほら、ママが来たよ。もう泣きやんで」
その笑顔で涙を止めて、私も笑顔を見せてきたのね。
こうして貴方と私の間に、素敵な想い出と『宝物』が増えていく。
──今夜。
たまには私から口づけてみようか……貴方のその、愛の溢れる守護石に──。

◇実はこちら、二作目のβより先に書き上げた作品ですので、「人魚同士どうやって・・・?」のくだりが同じく説明されていますが、敢えてそちらを省かずに上げました。
この後半部でおそらく衝撃受けた方が、少なからずいらっしゃるのではないかと思われますが、どうか引きずらずについて来てくださいませね!
あの『二人』は三作目にて或る意味『鍵』となる存在です* そちらもお楽しみに完結編三作目も、お付き合い宜しくお願い致します!!
次のページに相変わらず未熟な作品ですが、○○のイラストをご紹介しております☆ どうぞご覧ください♪
あれは四歳か五歳の頃だっただろうか? あの頃は何かと言っては姉さんの後ろを追いかけていて、あの時も北の岩場の森へ真珠を採りに行くと言い、こっそり出掛けた姉さんについて行ったけれど、途中ではぐれて独り泣いていたんだ。
ごつごつした岩の隙間を探しながら、どんどん暗い岩陰に進んでしまって、もう自分が何処にいるのか、どちらへ帰ればいいのかも分からなくなって、顔を両手で覆い立ち尽くしていた。
「ティアラ? ティアラ! 良かった~見つかった!」
そんな迷子の私を見つけてくれたのは……
「ジョエル……お兄ちゃん?」
──いつも貴方だった。
「もう大丈夫だよ、ティアラ。だから泣かないで。さ、帰ろう」
「お姉ちゃんはっ?」
目の前にはにっこり笑って手を差し伸べる貴方がいた。どうして見つけてくれたの? どうやって私の居場所が分かったの? 不思議なくらい、いつも気付けば貴方がいたの。
「アモールなら森の入口で待ってるよ。ティアラがいなくなったって慌ててた。一緒に探すと言ったけど、またはぐれても困るし、ティアラが自分で出てくるかもしれないと思って、そっちに待たせてあるよ」
そうして驚くくらい自然に私の右手を取って、笑顔を絶やさず誘導してくれた。
「母様に……話す?」
これが知れたら二人共大目玉だ。
「ん? もちろん内緒にするよ。だから早く笑ってみせて?」
「……うん」
迷子になったことも泣いていたことも、全部恥ずかしくてすぐには笑顔を見せられなかったけれど、貴方の向ける言葉は優しくて、笑顔は眩しくて、いつの間にかいつもの自分に戻っていたのを今でも良く覚えている。
──ありがとう……ジョエルお兄ちゃん……。

私は深い闇の中で、夢から醒めて瞼を開いた。
あれから心配顔の姉さんとも再会出来て、東の館に戻った私は疲れて眠ってしまって、目が覚めた時にはもうジョエルは帰ってしまっていた。
ちゃんとジョエルにお礼が言えなかったからなのか、いなくなったことが淋しかったのか、また泣いていたのだったと思う。
私はいつからジョエルを『お兄ちゃん』と呼ばなくなったのだろう?
ジョエルはいつから私を『ティア』と呼ぶようになったのかしら?
そして……いつから貴方に手を繋がれることを、恥ずかしく思ってた?
本当はずっと握っていてほしかったのに。母様に挨拶するように、手の甲に口づけされたかったのに。
──でも。
今はこうして瞳を向ければ、右手の先に貴方がいる──。
「ん……ティア? もう、朝……?」
繋いだ手に微かに力を込めたのを感じ取ったのか、隣でこちらを向いて休んでいた貴方は目を覚ましてしまった。
「ううん。起こしちゃってごめんなさい。夢、見てたみたい」
ルラの石の淡い碧の光に浮かび上がった口元が、寝言みたいに言葉を零す。
「どんな……夢? 僕も出てきた?」
そうして開いたブルーグリーンの瞳が、私をその中に映し込んだ。
「で、出てこなかった……私、独りだけ」
出てきただなんて話したら、根掘り葉掘り訊かれてしまいそうだ。
「そう……残念」
本当に残念そうな顔をするのね。再び閉じた瞼は少し拗ねて見える。
「まだ朝まで長いわ。ゆっくり眠って」
自分の空いた左手で、おば様譲りのホワイト・ゴールドの髪を撫でた。柔らかい髪。おじ様と同じだった榛色の時と、どちらが好きだろう。
「もう目が覚めたよ、ティア」
はっきりとした口調のその言葉と共に、突然目の前に意地悪そうな瞳が現れ、自分の上に優しく美しい髪が降り注いだ。──どうも、彼の心に火を点けてしまったみたい……。
「愛してるよ……“ティアラ”」
真面目に何かを伝えたい時に『ティアラ』と呼ぶの、もう口癖ね。
『ティア』の方が普通になってしまった今、改めてそう呼ばれるのは、とても大切にされている感じがして、少しこそばゆいけれど。
ゆっくりと深く濃い口づけが、私の唇に舞い降りる。
そしてすかさずテーベの石にキスするの、もう早業の域なんじゃないかしら。
ややあって自分の眼下で発生した真白い光が、私の身体を温かく覆い包み込んだ。不思議な感覚。でも今はもう、こちらの方が自然なくらいかもしれない。
「はい、ティア?」
自分でキスしても魔法は掛かるのに、どうしても私にさせたいの?
苦笑いしながらも、私も貴方の守護石に唇を寄せた。
やがて同じ純白の光が彼を纏い、現れた筋肉質な貴方の脚が、私のそれに絡みつく。この時ばかりはお互いの身体が空気の膜に守られるから、水に邪魔されない肌の質感が、温かくて心地良くて、そして何だか恥ずかしかった。
次に貴方は私の空気の中で深呼吸をした。
彼曰く、薔薇の香りがするのだとか。
額に、瞼に、頬に、再び唇に戻ってきた口づけが離れた時、隣の小さな寝台から、すがるような泣き声が、視線を合わせた彼の動きを止めた。
「……あの子達が、呼んでるわ」
「ふ……む。親の恋路を邪魔するとは、まったく良く出来た子供達だね」
目の前で一瞬がっかりした表情を見せつつも、嬉しそうに彼は身を起こし、大合唱となった小さな二つの身体を抱き上げた。
「こんな時間にどうしたの、可愛い子達? ん? お腹空いた? その食いしん坊、誰に似たの? モカおばちゃんかい?」
おどけた言葉であやす姿は、もうすっかり父親かしら。
「ティア~、パパじゃダメだってさ。こういう時ばかりは母親に敵わないよ」
私はクスッと笑って寝台から起き上がった。長めのシャツの向こうに見える、自分にはもったいないくらいの白く細い脚で立ち上がって、困り顔の貴方の許へ向かった。
「ほら、ママが来たよ。もう泣きやんで」
その笑顔で涙を止めて、私も笑顔を見せてきたのね。
こうして貴方と私の間に、素敵な想い出と『宝物』が増えていく。
──今夜。
たまには私から口づけてみようか……貴方のその、愛の溢れる守護石に──。

◇実はこちら、二作目のβより先に書き上げた作品ですので、「人魚同士どうやって・・・?」のくだりが同じく説明されていますが、敢えてそちらを省かずに上げました。
この後半部でおそらく衝撃受けた方が、少なからずいらっしゃるのではないかと思われますが、どうか引きずらずについて来てくださいませね!
あの『二人』は三作目にて或る意味『鍵』となる存在です* そちらもお楽しみに完結編三作目も、お付き合い宜しくお願い致します!!
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