今日も推しが尊いので溺愛は遠慮いたします!~なのに推しそっくりな社長が迫ってきて!?~

「プロポーズの返事をそろそろ聞かせてほしいな」

どこか楽しげに彼の目元が弧を描く。

「プロポーズって……本気なんですか?」

互いに酒も入っていたし、あの場かぎりの冗談なのではないかと芽衣子はどこか疑っていたのだと思う。頭の片隅にはあったけれど、まだ向き合う気持ちにはなれていなかった。なのでこんなに急に返事をと言われても答えが出せない。

「もちろん」

彼は至って真面目な顔で続ける。

「互いに利のあるいい契約だと思うんだが、逆に君がためらう理由はなに?」
「わ、私はごくごく普通の一般家庭の人間です。たとえ書類上だけの関係でも、夏目家の御曹司とは釣り合いが……」

冷静に考えると、この時点で無理な話だろう。だが、雪雅は一歩も引かない。

「俺の両親はもう亡くなっていて、意向を気にしなければならない親族は祖母だけだ。その祖母に納得してもらううえで、相手が俺の仕事を支えてくれている秘書の女性というのは最良だと思ってるよ」

ニヤリと、なんだか妖艶に彼はほほ笑む。

(夏目社長って、こんな顔をする人だったかしら)

自分の知っている彼など、夏目雪雅という人物のほんの一面でしかなかったことをあらためて痛感する。

「そもそも君が知らないだけで社内には俺と君の仲を疑っている人間も多い。結婚を発表したところで、やっぱりと思われるだけで誰も怪しんだりしないよ」

彼はわずかに身を引いて、壁に押しつけていた右腕をどかす。芽衣子の身体が少しだけ解放された。けれど彼の視線は芽衣子を縫い留めたまま。穏やかな瞳の奥に嗜虐的な色が浮かぶ。

「いつものクールな君もいいけど、困った顔もかわいいな。ますます逃がしたくなくなった」

深みのある黒い瞳に獰猛な光が宿る。まるで獲物を前にした猛禽類のようで、芽衣子は身じろぎもできなかった。


☆☆試し読みはここまでとなります。続きは2025年8月発売のベリーズ文庫にてお楽しみくださいますよう、お願いいたします☆☆