たとえ書類上だけの話だとしても雪雅が自分の夫だなんて!
(推しそっくりの男性と結婚⁉ そんな妄想が現実になったみたいな話、あるわけないわよ)
あらためて見てもルイによく似ている雪雅がクッと喉の奥で笑う。
「すぐには結論が出ないようだね」
「こ、こんなご提案をされるとは思ってもいなかったので」
「わかった。少し時間をあげるから、よく考えてみて」
彼の言った『少し』は本当に短い猶予だった。
契約結婚のお誘いから一週間も経っていない水曜日、終業ベルが鳴ったあとのこと。
ふたりのいる社長室は、半開きのブラインドから差し込む夕日で茜色に染まっている。芽衣子は雪雅の手によって壁際に追いつめられていた。今だかつてなかった至近距離。彼の右肘が芽衣子の顔のすぐ横に置かれ、逃げ道を塞がれる。
(こ 、これはいわゆる壁ドン的な? ルイさんはそっち系のキャラじゃないし、完全に解釈違い……いやいや、この人はルイさんではなく夏目社長で……だから、えーっと)
迫ってきている彼を見あげる芽衣子の瞳はいつもどおりのクールなものだったけれど、その内心は人生で一番というほどに大混乱していた。思考がちっともまとまらず、あちこちに出かけていってしまう。
「あ、あの、この状況は誰かに見られたらマズくないでしょうか」
ようやく出た第一声がそれだった。でもパニックのわりには、いい台詞を選んだと思う。セクハラ、パワハラには気を使いすぎるほど使っている雪雅だ。きっと冷静さを取り戻すはず。ところが、彼はにっこりとどこか意地悪に笑っただけ。
「もう業務時間外だ。社長と秘書ではなく、ただの男と女として話しているつもりだよ」
それが詭弁であることを知らぬ彼ではないだろうに。ようするに、雪雅は芽衣子に引く気はないと示したのだ。
(推しそっくりの男性と結婚⁉ そんな妄想が現実になったみたいな話、あるわけないわよ)
あらためて見てもルイによく似ている雪雅がクッと喉の奥で笑う。
「すぐには結論が出ないようだね」
「こ、こんなご提案をされるとは思ってもいなかったので」
「わかった。少し時間をあげるから、よく考えてみて」
彼の言った『少し』は本当に短い猶予だった。
契約結婚のお誘いから一週間も経っていない水曜日、終業ベルが鳴ったあとのこと。
ふたりのいる社長室は、半開きのブラインドから差し込む夕日で茜色に染まっている。芽衣子は雪雅の手によって壁際に追いつめられていた。今だかつてなかった至近距離。彼の右肘が芽衣子の顔のすぐ横に置かれ、逃げ道を塞がれる。
(こ 、これはいわゆる壁ドン的な? ルイさんはそっち系のキャラじゃないし、完全に解釈違い……いやいや、この人はルイさんではなく夏目社長で……だから、えーっと)
迫ってきている彼を見あげる芽衣子の瞳はいつもどおりのクールなものだったけれど、その内心は人生で一番というほどに大混乱していた。思考がちっともまとまらず、あちこちに出かけていってしまう。
「あ、あの、この状況は誰かに見られたらマズくないでしょうか」
ようやく出た第一声がそれだった。でもパニックのわりには、いい台詞を選んだと思う。セクハラ、パワハラには気を使いすぎるほど使っている雪雅だ。きっと冷静さを取り戻すはず。ところが、彼はにっこりとどこか意地悪に笑っただけ。
「もう業務時間外だ。社長と秘書ではなく、ただの男と女として話しているつもりだよ」
それが詭弁であることを知らぬ彼ではないだろうに。ようするに、雪雅は芽衣子に引く気はないと示したのだ。



