五日後、父が無事に退院できたと母から連絡が入った。
『でも、お父さんちっとも元気が戻らなくて』
あのオーナーとの縁を断つために両親はサロンの移転を真剣に考えてみたそうだ。けれど、資金的にも集客戦略的にも課題は多いよう。
「まずはお父さんの体調を整えて、店のことはそれから考えようよ」
できるだけ明るい声で芽衣子は母を励まし、電話を終えた。
その日の夕方六時、終業ベルを聞き終えたタイミングで芽衣子は雪雅に声をかけた。父の退院を報告するためだ。
「お父さん退院できたのか。それはよかった」
「はい。その節は大変お世話になりました。それで、社長になにかお礼をしたいのですが」
雪雅に渡す気のきいた贈りものなど、正直なにも思い浮かばない。ならば本人の希望を確認しようと芽衣子は尋ねた。彼は親指と人さし指で自身の顎をゆっくりと撫でつつ口を開いた。
「なにもいらないと言っても……生真面目な君は納得しないよな。あぁ、それなら!」
難しい案件の打開策を見つけたときと同じ顔で彼はポンと手を打つ。
「金曜の夜は空いてる? 行きたい店があってね、君がそれに付き合うというのはどうだ?」
存分に夜更かしできる金曜日の夜はイノバラの世界にどっぷりと浸かるのが習慣だったが、さすがにここを断るほど恩知らずではない。芽衣子はこくりとうなずいた。
「もちろん。私でよければ」
「助かるよ。……ちょっと頼みたいこともあるしね」
(夏目社長が私に頼み?)
なんだか意味ありげに響いたので気になったけれど、ちょうど雪雅のスマホが鳴ったためにふたりの会話はそこでおしまいになってしまった。
『でも、お父さんちっとも元気が戻らなくて』
あのオーナーとの縁を断つために両親はサロンの移転を真剣に考えてみたそうだ。けれど、資金的にも集客戦略的にも課題は多いよう。
「まずはお父さんの体調を整えて、店のことはそれから考えようよ」
できるだけ明るい声で芽衣子は母を励まし、電話を終えた。
その日の夕方六時、終業ベルを聞き終えたタイミングで芽衣子は雪雅に声をかけた。父の退院を報告するためだ。
「お父さん退院できたのか。それはよかった」
「はい。その節は大変お世話になりました。それで、社長になにかお礼をしたいのですが」
雪雅に渡す気のきいた贈りものなど、正直なにも思い浮かばない。ならば本人の希望を確認しようと芽衣子は尋ねた。彼は親指と人さし指で自身の顎をゆっくりと撫でつつ口を開いた。
「なにもいらないと言っても……生真面目な君は納得しないよな。あぁ、それなら!」
難しい案件の打開策を見つけたときと同じ顔で彼はポンと手を打つ。
「金曜の夜は空いてる? 行きたい店があってね、君がそれに付き合うというのはどうだ?」
存分に夜更かしできる金曜日の夜はイノバラの世界にどっぷりと浸かるのが習慣だったが、さすがにここを断るほど恩知らずではない。芽衣子はこくりとうなずいた。
「もちろん。私でよければ」
「助かるよ。……ちょっと頼みたいこともあるしね」
(夏目社長が私に頼み?)
なんだか意味ありげに響いたので気になったけれど、ちょうど雪雅のスマホが鳴ったためにふたりの会話はそこでおしまいになってしまった。



