君に花を贈る

 並んで展覧会の受付にチケットを出す。
 会場の中は、花の香りでいっぱいだった。

「わあ……っ、すごい……」

 正面には大きなアレンジが飾られていて、いきなり圧倒されてしまった。
 色使いが派手というか、豪華で、こちらに向かって飛び出してくるみたいだ。

「……うん」

 それきり藤乃さんは黙ってしまった。
 ゆっくり、順路通りに見て回る。
 どれも色味がはっきりしていて、力強くて、まるで爆発みたい。でも、静かに風にそよぐようなアレンジがぽつんと置かれていて、そのギャップに思わず息を呑んだ。
 藤乃さんは、一つひとつを静かに見ていた。
 時間をかけて、葉の先までじっと真剣な顔で見つめていた。
 展覧会を見に来たっていうより、宿題に丸をつけてる先生みたいな顔だった。
 どうしてそうしたのかを、ひとつひとつ、確認している。
 そんなふうにゆっくり回って、ようやく最後の展示室までたどり着く。
 そこには、天井近くから大きな藤の花が垂れ下がっていて、小さな日本庭園が再現されていた。藤の花を通して、やわらかい光が差していて、幻想的だ。
 静かな空間で、藤乃さんと二人で立ち尽くしていたら、突然大きな声がした。

「ふっくん! 来てくれたんだね!?」

 パタパタと、華奢な女の人が駆け寄ってきた。SUZU――鈴美さんだ。
 小柄で華奢で、まるで少女みたいにかわいらしい人だった。チケットに書いてあったプロフィールだと、藤乃さんよりも年上だったと思うけど。

「やっと来てくれた! ね、どうだった? 私が作ったお花たち。ふっくんが選んでくれたから、一番きれいに見せたくて、がんばったの! この部屋もそうなの! ね、ふっくんは……」

 そこまで言って、藤乃さんの隣にいる私に気づいて、鈴美さんは引きつった顔で口を閉じた。

「……ふっくん、こちらは……?」
「お前には関係ない。花は見た。……良かったと思う」

 藤乃さんは、私が思わず身を引くくらい低い声で答えた。
 鈴美さんは、引きつった顔で私と藤乃さんを見比べた。

「やっと来てくれたと思ったのに、他の女の子と一緒なんて……」

 ……それで、気づいてしまった。この人も、私と同じ気持ちなんだ。

「ひどいよ、ふっくん。待ってたのに」
「なんの話だ。俺はお前を待たせた覚えはないし、待って欲しくもない。言っただろ、関わりたくないって……」

 思わず、藤乃さんの手を握ってしまった。
 鈴美さんの気持ちが分かってしまったから、それ以上は言わないであげてほしい。
 藤乃さんは黙ったまま、私を見た。
 そっと首を振ると、藤乃さんの手が、少しだけ握り返してくれた。
 藤乃さんはゆっくり鈴美さんに視線を戻す。

「……悪い。とにかく、展示してあったアレンジは良かった。俺が選んだ花をちゃんと生かしてくれて嬉しかった。じゃあ」

 それだけを早口で言って、藤乃さんは私の手をぎゅっと握って踵を返した。
 去り際に鈴美さんに軽く会釈をすると、睨まれたけれど、その顔は泣き出しそうだった。
 エントランスまで早足で出てくると、藤乃さんは窓際のベンチに、崩れるように腰を下ろした。

「……ごめんね、花音ちゃん」
「いえ、私は平気です。ちゃんと最後まで見られましたから」

 つないだままの手に、そっともう片方の手を重ねた。藤乃さんは背中を丸めて、黙ってうつむいている。