宗主国の皇女は、属国で幸せを見つける

とはいえ、
王太后だけならまだ対処しようがあったかもしれない。

しかし、
サレハ王女の結婚の一件で
ドラゴニア帝国への反感が社交界全体で高まり、
宮廷ではドラゴニア帝国の象徴として
フィロメナは嫌悪の対象となってしまっていた。

でも、
フィロメナにはどうすることもできなかった。
もとよりドラゴニアへの影響力はなく、
クレオールからは妹ではないと言われた以上、
サレハ王女の結婚話を
自分がどうにかすることは不可能だ。
「ドラゴニア帝国の皇女」という
変えることのできない事実が
フィロメナを追い詰めていく。

最近は何をしていても息苦しく、
常に重苦しい何かが心を締め付けている。
食欲も落ち、眠れない日も増えてきた。
公務先や宮廷の中庭で
仲睦まじいカップルや夫婦を目にする度、
嫉妬にも似た感情が胸にこみ上げてくる。
本当の夫婦は辛いことや苦しいことがあったら、
お互いを支え合って乗り越えて行くのだろう。
この辛い胸の内を
オルランドに打ち明けたら、
彼は受け止めてくれるだろうか。

いいえ、そんなことできない。
フィロメナは力なく首を振る。
自分たちは愛し合って結ばれた夫婦ではない。
彼もサレハ王女に言っていたではないか、
「国への義務として結婚した。」と。
王妃としての立場が揺らぎ始めている自分が
縋りつくのは迷惑だろう。

フィロメナはそう結論づけ、
辛い気持ちを厚化粧で覆い隠すのだった。