宗主国の皇女は、属国で幸せを見つける

男は言いたいことを言うと、
フィロメナを残しバルコニーを出ていった。
レナートの胸に言いようのない怒りがこみ上げる。
フィロメナに対する、とてつもない侮辱だ。
レナートはそっとバルコニーに出る。
フィロメナは大丈夫だろうか。

フィロメナはバルコニーの柵に手を置いて
静かに涙を流していた。
声をあげることなく、ただただ静かに。
彼女の涙は何が理由なのか。
男に侮辱されたことへの怒りや悲しみか。
夫に顧みられることのない寂しさか。
あるいは両方か。

レナートは静かに泣くフィロメナを見て、
抱きしめてあげたい衝動に駆られた。
1人で耐えるくらいなら、
自分の腕の中で声を上げて泣いてほしい。
今、はっきり自覚した。
俺は王妃様を恋い慕っているのだと。
オルランドがしないのなら、
自分の手でフィロメナを幸せにしてあげたい。
しかし、こんな誰が見ているか分からない場で
主君の妻に手を出すわけにはいかない。
レナートはフィロメナにそっと近づき、
ハンカチを差し出した。

「いつまでも泣かれていては、せっかくの化粧が台無しになってしまいますよ。まぁ、私はその下の素顔の貴女の方が美しいと思いますが。」
「えっ?」
フィロメナが驚きの声をあげる。
レナートに全く気づいていなかったようだ。