宗主国の皇女は、属国で幸せを見つける

朝食後、
フィロメナは珍しく王太后に呼び出されていた。
嫌な予感しかしない。
王太后と関わって楽しかったことなど1度もないのだから。

王太后はもともとはこの国の公爵家のご令嬢で
王家の人間とは子供の頃から親しい間柄だった。
そのため前国王との結婚も自然の成行きで、
国中に祝われて華燭の典をあげた。
前国王夫妻は幼なじみで夫婦仲も良かったが
いかんせん子宝にはなかなか恵まれなかった。
数年に及ぶ不妊治療の末に授かったのが
現国王オルランドなのである。
オルランド誕生の2年後に
王女アドリアーナも授かるが、
王太后はオルランドを特に溺愛した。

教育にも熱心に関わり、
次代の国王として何ら不足のないように。
自身が愛情をかけて立派に育った息子には、
国王としての激務を支えてくれる
優秀な女性を妻に迎えなければならない。
そう思っていた矢先に
ドラゴニア帝国から押しつけられた女が
フィロメナなのである。

もともと仕切りたがりな性格も手伝って、
勝手にやって来たフィロメナが
王妃として存在することが
嫌で嫌で仕方ない。
それでも息子がフィロメナを気に入れば
なんとか納得できたかもしれないが
夫婦仲は冷え切ったまま。

自身の夫は息子に王位を譲ったあとは
田舎の別荘に隠居してしまったが
あんな女に宮廷は渡せないと
王太后は決して王宮から去らなかったのだ。