宗主国の皇女は、属国で幸せを見つける

そんなことを言われると
行かないわけにはいかない。
自分を思って一生懸命準備してくれたことを
台無しになんてできなかった。

晩餐の会場は
離宮のこじんまりとした食堂だった。
掃除する手間を増やすのは申し訳ないと
フィロメナは全く使っていなかった部屋だ。
レナートに連れられて
急ぎ向かう。

あれだけ行くのをためらっていたのに、
オルランドが一生懸命準備していたと聞いた途端、
早く行ってあげなければと
簡単に気持ちが切り替わった自分に驚く。
オルランドと過ごす時間が増えていくにつれて、
激しく情熱的ではないけれど
確かな信頼で結ばれた穏やかな愛が
2人の間に確実に芽生えつつあった。

「さぁ、この階段を降りれば陛下がお待ちです。王妃様におかれましては、素敵な晩餐をお楽しみくださいませ。」
レナートに送り出され、
フィロメナは階段へと向かう。
階段の手すりに手をかけた時、
フィロメナに気づいたオルランドが
流れるようなスピードで駆け上がってきて
フィロメナの手を取った。
その目にはうっすらと
涙が溜まっているような気がして
フィロメナの心は震える。

「来てくれて嬉しい。待っていたよ。」
「遅くなってしまって申し訳ございません。」
フィロメナもオルランドの手を握り返し、
彼のエスコートを受け入れる。
オルランドが支えてくれれば
階段もちっとも怖くなかった。