私にとっての幸せの最高潮を、依央は何度も塗り重ねてくれる。そんなところが好きだ。私のわがままを聞いてくれるところが好き。そして、私のわがままに自分を巻き込んで、全部ぐちゃぐちゃにして、全部まとめて放り投げる彼が好きだ。
「依央が私の願いを、叶えてくれるんだね」
体力は限界だったけれど、無理を承知で声を絞り出した。
私は彼の顔をはっきりと認識することができなかった。笑っているのか、泣いているのかはわからなかったけれど、私を抱く腕から、彼は満足しているのだろうと勝手に解釈した。そうでないと、あまりにも彼が不憫だ。
聴覚だけが研ぎ澄まされていた。依央が発した、そうだよ、という掠れた声を認識する。
私が眠った後、きっと彼の手が私の首にかかるのだろう。そんな未来を想像すると、高揚で脳が蕩けそうだ。
いつだったか忘れてしまったけれど、綾人くんと一緒にいるとき、死の直前に誰を求めるかについて考えたことを思い出した。
そのときに私が出した答えは、その時になってみないとわからない、なんて陳腐なものだったけれど、今になってやっと、その答えが出た気がする。
愛というものはいやに難しい。
たったひとつのそれが、全てを構築することもあれば、全てを壊すこともある。
「依央、愛してる」
私が声を出すのは、これが最後だろうと思った。
「……俺も、お前のこと愛してるよ、ずっと」
これが、と実感する前に、私は目をゆっくりと閉じた。
依央の腕がまた少し強くなったけれど、それ以降の感覚は遮断された。自分自身の意識と、彼の体温、抱きしめる手の強さ、柔らかな匂いも、少しずつ溶け込んで、そして煙を巻くようにして。


