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もう一度目が覚めたら、そこは私の部屋だった。
隣には誰もいなかった。さっきの夢が妙にリアルだったせいで、何が本当で、何が嘘かわからなくなる。今生きている世界が本物なのか偽物なのか、判断がつかない。けれど、隣には依央がいない。
「うなされてたけど、大丈夫か」
となりのぽっかり空いた空間をぼうっと眺めていると、視界の外側から、愛おしい声が聞こえてくる。勢いよくそちらを振り向くと、台所の方から依央がこちらにやってきた。
「うん……」
「……そうか」
彼が、目の前のテーブルにマグカップをふたつ置いた。中にはココアが入っている。ココアだなんてもの、うちには置いていなかったと思うのだが、おおかた依央がコンビニかどこかで買ってきてくれたのだろうと思って、特に疑うことはしなかった。
「飲む?」
「飲む……」
片方のマグカップを手に取って、それに口をつける。ちびちびとそれを飲む私を見て、依央が満足そうに私の頭を撫でた。
そのとき、違和感を覚える。違和感というにはあまりにも小さいけれど、気のせいという言葉では片付けるのが躊躇われるような。けれど多分、違和感というのがやっぱりしっくりくるような、そんな感じ。
それは、一つ、舌先がじわりと痺れる感覚だった。
「ココアって、こんなに苦かったっけ」
「え、うそ」
依央が自分の分のマグカップを手に取って、同じようにそれを一口飲んだ。彼はそれを口に含むや否や、目を細めて笑った。
「ごめん、俺やっぱり、料理苦手かも」
「ココアって、料理なの?」
「確かに、違うかも」
私は依央の口調に安心して、ココアを全て飲み干した。苦味が心地よいとすら思った。依央は半分くらいまでそれに口をつけて、残りはテーブルの上に置いたままにしていた。
暖かいものを飲んだせいだろうか。また身体が暖かくなってきて、眠気がやってくる。
けれど、さっき見ていたあの光景がやけに生々しかったせいで、少し嫌な感じがした。実のところ、さっきの夏目先輩との光景が本来の世界で、いま私が生きているこの空間こそが嘘なんじゃないかって、そんな突飛な想像をしてしまうくらいに、この世界は現実味がない。
なぜ現実味がないかというと、私があまりにも幸せだからだ。起きて、依央がいて、彼と過ごす。そんな時間を享受できるほど、自分自身に価値があるとは思えないのだ。


