夏目先輩があまりにも頓狂な顔をしてみせるので、私はますます混乱した。
「そんなひとって、依央は依央ですけど」
「だから、誰のこと? 本当に寝ぼけちゃってるの?」
ほら、しっかりして、と彼が私の頭を撫でる。そのまま彼は私の髪の毛を直し始める。髪の毛の束が彼によって整えられる。手櫛を繰り返す夏目先輩の手が冷たく感じる。
「さっきまで、依央と一緒にいたんです」
「……それが本当なら、なおさら夢だね。きみはずっと、ここで眠っていたはずだろう?
それに僕は、そんな男の子の名前、きみから聞いたことなんて一度もないよ」
「嘘だ、だって、」
ポケットに入っていたスマホを取り出した。画面をつけて、連絡先を見る。ここに、確かに依央の名前があるはずだった。早く、依央に会いたい。
「ねえ、どうしたの」
「この中に、依央がいるんです」
「連絡先の中に、ってこと?」
必死になって首を縦に振ると、先輩はふうん、と鼻を鳴らしながら、一緒に画面を覗き込んできた。私は必死に画面をスクロールさせながら、彼の名前を探し続けた。
「どうして……」
上から下に続く文字の羅列。全て見慣れたもののはずなのに、彼の連絡先だけがどこにも見当たらない。
夏目先輩が、隣で腕を組みながら呆れたような顔をした。


