夢を見ているみたいだった。
幸せで儚くて、それでいて短い夢。
目が覚める。目の前に誰かがいる。
ぼうっとする意識を少しずつ明瞭にしていくと、なんだか懐かしい景色が見えてくる。
「ほら、起きなよ。そろそろ時間だよ」
耳に心地よい声が聞こえる。きっと、夏目先輩の声だ。
少しずつ物事の輪郭が浮かび上がってくる。キャスターのついた古臭い椅子、机の上に乱雑に転がる書類と筆記用具、先輩の鞄、床に揃えられている私のスリッパ。そして、夏目先輩の肌。
「いつにもなくぼうっとしてるね」
「……」
「でもきみ、幸せそうに眠っていたよ。珍しく、夢でも見てたんじゃない?」
「夢?」
「そう、夢だよ」
「どうして……」
「そんなこと、僕に言われても困るな」
まだ眠りたかった? と夏目先輩が私の髪の毛をそっと撫でた。
なんだか違和感を覚える。何かがおかしい気がする。けれど、何がおかしいのか私にはわからない。
私の身体も、夏目先輩の手も、すぐそこにある。けれど、何かがおかしい。
「夏目先輩……」
「ん、どうしたの」
「依央は、依央はどこにいますか」
そうだ、依央がいない。私の大好きな、あの人がいない。さっきまで触れていたはずの、そこにいたはずの、そして、愛し合っていたはずの。
けれど、私からの問いかけに対して、夏目先輩はぽかんとした顔をしてみせる。
「……だれ? そんなひと、知らないよ。それこそ本当に、夢でも見ていたんじゃないの?」



