性、喰らう夢



 仮に依央ともっと早く出会っていたとして、私の今まで積み上げられてきた十数年が変わるとも思えない。

 依央が話しているのはあくまで仮定の話。もう過ぎ去ってしまった時間、もう戻らない時間に対しての話だ。

 私にはもう、それをどうこうしようとか、もう少し生きてみようだとか、そんな希望は残っていない。それこそ、私にはいわゆる学習性無力感みたいなものが働いているのかもしれなくて、要は、環境に対して働きかけをする気にならないのだ。


 依央の涙は止まらなかった。

 依央のせいじゃないよ、と何度も言ったけれど、彼は目を赤くして私に縋り付くばかりだった。

 そんな彼の一挙一動のせいで、私はますます死にたくなった。彼がこんなに私を求めてくれるだなんて奇跡、そうそう長くは続かないだろうと思っていたからだ。



「俺は、俺は今、どうしたらいい?」



 依央は、依央のままでいて。そんなことを言った時、彼は喉を鳴らしながら私をその両手で掻き抱いた。息が苦しかったけれど、心が満たされていく感じがした。

 だんだんと、眠くなってくる。いつの間にか私の不眠は治っていて、むしろ最近は妙に眠気が酷いような気がする。

 私はそっと目を瞑った。彼の体温が気持ちいい。

 私は眠った。身体の心地よい疲労のせいだろう。今はそういうことにしておこうと思った。




第5章 極点 end