全ての言葉を吐き出したあと、依央の方を見上げると、いつの間にか彼は泣いていた。
こちらを見て、その瞳の中に涙を溜める彼が、必死になって私の手を掴んでいる。部屋の暗い照明が、彼の涙の中に反射してきらきらとしていて、不覚にもきれいだな、と思った。
「俺がもっと早く、お前のこと助けてれば良かったんだ」
「どうして……もう十分、依央には助けられたんだよ」
「俺はずっと、ずっと、見て見ぬふりしてたんだ。お前とロッカーの前で初めて話したとき、教科書を捨てられてたあたりから嫌がらせに気づいたって話したけど、そんなのは正直俺の見栄で、本当はその、もっとずっと前から気づいてた」
「そんな、いつから」
「お前が、バイトして先生からきつく叱られたあたりから」
「……祥平と仲良くなる前の話だ、それ」
「だからだよ。だから余計なんだよ。
お前がそういう、何をしても無駄だっていう無力感に苛まれるようになったのも、俺なんかと一緒になっただけで馬鹿みたいに幸せを感じちゃうくらいには辛いことばっかりの毎日を送ってたのも、全部全部、誰かが、その誰かっていうのはできれば俺であって欲しいけど、要は俺が、もっと早くからお前に手を差し伸べられてたら、もしかしたら何かが変わってたのかなって」
「もういいよ……」
毎日、すれ違いざまに私の足元を見てくる長身の男の子がいた。最後にスリッパが下駄箱からなくなっていた、夏目先輩のところに行ったあの日も、その人はすれ違いざまに私の足元をちらりと見ては、いつもふいに目を逸らしていた。
ああ、あれは依央だったんだ、と今になって思う。けれどそれに対して、別に何とも思わない。どっちにしたって、私を地獄の底から掬い上げてくれたのは依央だったのだから。
だから、だからどうか。


